みなさんは「ストーリージェニックな名刺」をご存知でしょうか?
Twitterをやっているクリエイティブ界隈の方なら、一度くらいは聞いたことがあったり、見たことがあるかも知れません。
上司ニシグチ(@a_design_link)さんという方がTwitterやnoteで発信しているものです。
ボクが「ストーリージェニックな名刺」というものを知ったのは2018年の夏。
たまたまwitterのタイムラインに流れてきた、一つの記事からでした。
その記事を読んで、このアイディアを知ったときは、正直衝撃を受けました。
なぜなら、テレビも冷蔵庫も持たないミニマリストなボクにとって、もともと名刺は「もらっても邪魔になる、不要なもの」だったからです。
お会いしたあとで連絡を交わすような人とは、すぐその場でSNSなりLINEを交換します。
名刺だけあっても、顔と名前が一致しないことも多いし、後日で名刺を参照して連絡をしたという記憶は正直ありません。
かといって、やはりもらったものだし、よそ様の個人情報はてんこ盛りだしで、捨てるに捨てられないのも事実です。
ボクにとって名刺とは、「古くからの慣習だけでやりとりされている、とてもコスパの悪いもの」でしかありませんでした。
ですが、この「ストーリージェニックな名刺」に出会って、その考え方は180度変わりました。
名刺もうまくデザインすれば、最高のビジネスツール、究極のコミュニケーションツールになるという事実を目の当たりにしたからです。
名刺制作に対しての自分の視野の狭さ、発想の未熟さを恥じましたし、何より、悔しかったですね。
さて、記事を読んで3ヶ月後、昨年の11月のことですが、福岡で多くのクリエイターの集まる機会がありました。
そこは、上司ニシグチさんはじめ、そうそうたるクリエイター、デザイナーの面々が集まる場でした。
なので、そこに間に合うよう急いで自分の「ストーリージェニックな名刺」を作ろうと思い立ちました。
今回は、その時に自分が試しに作ってみた「なんちゃってストーリージェニックな名刺」のコンセプトデザインの部分を紹介しながら、名刺デザインの必要性に加えて、デザイン時にボクが犯した超恥ずかしい単純な失敗なんかも赤裸々に語っていこうと思います。
ターゲットを考える
今回の名刺では、コンセプトをデザインする前にまずターゲットを明確にしました。
クリエイティブは名刺。
当然のことながら「相手に渡すもの」ですので、その渡す相手がターゲットです。
9割近くがビジネス用途だと思いますので、基本的には名刺のターゲットはビジネス上でお会いする相手ということになるでしょう。
で、本来ならその相手がどういう人(企業)なのかを分析していく感じですね。
でも、ボクはすでに会社の名刺は持っています。
今後もクライアントさんと名刺交換をするときは会社名刺を使うでしょう。
なので、今回の名刺はもう少しターゲットを限定した方が良さそうです。
同じ用途の名刺を2種持ってても仕方ないですから。
では、ボクはこの新しく作る名刺を誰に渡すのか?
きっと「Twitterで知り合った人(多くはクリエイターさん)」になりそうです。
東京でクリエイター交流会を開催していることもあり、TwitterやFacebookから交流させていただく方も多くいます。
ネットを介して知り合う人にとって、ボクは企業人ではなく、個人Andyです。
そのAndyが、どんな人なのか、どういう仕事を得意とするのかを分かってもらうためのきっかけとしての名刺にしたい。
そんなわけで、今回のターゲットは「新規にお会いするクリエイターさん」としました。
コンセプトを考える
さて、ターゲットが決まり、「Andyがどんな人でどんな仕事をするのかを分かってもらう」という目標ができました。
次はそれを叶えるためのコンセプトをデザインしていきます。
まず、ボクの肩書きは「クリエイティブ・ディレクター」です。
これは記載すれば誰でも読めるし、クリエイティブ界隈の方ならそれなりにどんな仕事をするのかわかりそうです。
でも、本当に伝えたいのはその肩書きではありません。
「ストーリージェニックな名刺」とは、単に名刺の裏表をデザインすることではありません。
名刺を渡すことによって、その人に紐付いたテキスト以上の情報が発信され、その場で受け取った方との会話が発生するようなものだと思うのです。
つまり、「ストーリージェニックな名刺」とは、「名刺受け渡し前後のコミュニケーションをもデザインすること」と、ボクは定義付けました。
では、ボクは名刺を渡したときに「何を知ってもらい」「どう言う会話をしたいのか」を明確にする必要がありそうです。
Andyの特技、特徴とは?
ボクは、他人のアタマの中にある曖昧な思考を簡潔に抜き出し、「こういうことですか?」と提示するのが得意です。
そこに新しいアイディアを盛り込み、飛躍させ、発想を具現化します。
この得意な部分を無理やり言葉にするとしたら「抽象概念の言語化」とかでしょうか。
でも、当然ですが、そんなこと名刺に記載しません。
そんなに難しく言ったところで、誰も興味を持ってくれないでしょう。
なので、この言葉を今度はイメージとしてビジュアライズしていきます。
例えば、真っ暗な闇をさまよっているところで、不意に光がさす…そんなイメージだとどうでしょう?
あるいは、ごちゃ混ぜの記号にしか過ぎない言葉の羅列をミキサーにかけると、みんなが読める文字が抽出される。みたいなイメージも近いかも知れません。
そんなラフのイメージパターンをいくつも出していきました。
同時に、それらのビジュアルの言語化(キャッチコピー化)も行いました。
・抽象概念の先導者
・もやもやの道標
・クリエイティブの水先案内人
などなど… ひとまず思いつく限りを書き出しました。
で、最終的に自分としてしっくりきたのが
人の「?」を「!」にする
というフレーズでした。
これはすごく自分の本質を示した言葉だなと感じています。
実際に今でもTwitterのプロフィールには記載したままです。(2019.05.31現在)
そして、このフレーズを具現化するビジュアルを思い付きます。
ヒントになったのは、幼い頃に遊んだ迷路のクイズでした。
名刺ビジュアルの作成
これらの思考過程を経て、初校として作り上げた名刺がこちらです。
おもて面
自分の肩書き、名前以外に、迷路を配置しています。
ちょっとした会話のなかで、挑戦したくなってくれたらおもて面としては成功です。
そしてその回答を裏面に配置することにしました。
ここがこの名刺最大のポイントです。
うら面
このうら面の答えを見た瞬間に、受け取った方の頭のなかの「?」が「!」になれば成功です。
そして、ボクはこういう発想、提案が得意なんですよ。と話をすることができるなら、一応「名刺受け渡し前後のコミュニケーションをもデザインする」ことができるのではないかと考えたのです。
ちなみに、表のうちから正解を即座に閃く方もいます。
そういう方とは「同じ発想ですね!」と盛り上がれるので、それもそれでありです。
まとめ
ということで、ボクなりの「なんちゃってストーリー・ジェニックな名刺」の作り方でした。
ちなみに、ここで完全にネタばれしちゃってるのは、すでに違う名刺を使っているからです。笑
なぜ変えたのか、というと、アイディアそのものは良かったと思うのですが、トータルとしてのボクのブランディングから考えた場合、ちょっと遊び心が強すぎるかなと感じたためです。
また、デザインそのものも、どうしても情報量が多くなり、ボクらしくないというのも大きな理由です。
ボクが得意とするデザイン、思考は、究極なまでのシンプルと余白。
そう思うと、迷路名刺は楽しいし悪くはないのですが、ベストではない、と判断しました。
なので、個人Andyとしては、今はこんな感じの名刺を使っています。
(Design by Office io|ハナ)
クリエイター交流会などで受け取ってもらえると嬉しいです。
さて、最後にちょっとした失敗談を。
これは単なる言い訳でしかないのですが、迷路名刺は印刷までとにかく時間がなく、初校状態でそのまま入稿しちゃいました。
なのでデザイン的には本当はあと2、3校ブラッシュアップしたかった…というのが本音です。
例えば迷路のサイズをもっと小さく、正方形にするとか、アイコンっぽくするとか・・・
いま考えてもまだまだデザイン的にいろいろできるのは悔しい限りです。
そして、最大の失敗が一つ・・・
この名刺の入稿、交流会に間に合わせようと急いでいたため、飲んで帰った時に勢いで処理したのですが、50枚作るつもりがなぜか一桁間違えると言う大ミス・・・
手元に届いた500枚の名刺を見たときの「?」は今でも忘れません。
これだけが、いまだに「!」にできないんですよね・・・
さてさて、今回のボクの名刺が、まぁどこまでストリージェニックだったかは別として、あらためて名刺の価値を見直すことができたのが一番大きなメリットだったと思ってます。
もちろん、この考え方は名刺に限らず、チラシやポスター、フライヤーにも応用できます。
そういう意味で、あらためて紙媒体のクリエイティブの価値を再確認できました。
もともとボクは動画系からWebデザインにはいり、その流れでグラフィックのディレクションもやってる感じなので、クリエイティブとひとくくりにしたとき、紙媒体ってのは一番遠い位置にあるんだなぁと実感したのも事実です。
さらに、自分の未熟さも感じつつ、それでもコンセプトデザインについては動画もWebもグラフィックも垣根がないんだなと思うに至りました。
もっともっと、総合的にクリエイティブをディレクションできるように、今後もますます精進していきたいと痛切に感じます。
現在はoffice io のクリエイティブ・ディレクターとしての活動も拡大中です。
洗練されたアート×デザインを軸に、コンセプトから作り込むクリエイティブをご提案してます。
興味がありましたら、ぜひご一報ください。