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Office io|コンセプトは「刻を刻む」。腕時計の文字盤デザインプロセス公開

以前、クリエイターEXPOにOffice io のクリエイティブ・ディレクターとして参加しました。
その時にお声掛けをいただいたベンチャー企業さまから「腕時計の文字盤」をデザインしてもらいたい、とのお題をいただきました。
今回はその時のコンセプト設計について、ボクがどのように考え、クリエイティブ・ディレクションを行ったのかを解説していきたいと思います。

ターゲットの設定

いままで、動画やウェブサイト、パンフ、ロゴ、名刺など、さまざまなクリエイティブのディレクションをしてきましたが、「文字盤」というのは初めてでした。
聞いた瞬間、おもしろそう!と思った案件です。

とはいえ、世の中に腕時計なんてごまんと溢れています。
そんな中、単純に数字を羅列した文字盤をデザインするのでは面白くありません。

ioの特徴でもある「余白を活かしたデザイン」で、数字を全て無くした「真っ白な文字盤」なんかも思いつきましたが、そんな時計ならどこにでもありそうです。

もっと、唯一無二で、ioだからこそのデザイン
この案件については、まずはそれを探すところから始まりました。

クライアントさんからは「文字盤をデザインしてほしい」というオーダー以外には一切ありません。
よくある「なんでも良いから」状態です。
これは実は、やりやすいようで難しい状況なんですよね。

なぜか?

クライアントさんからのオーダーが何一つないということは、この先クリエイティブが向かう先として、何一つ指針や指標がないということになります。
それは地図やコンパスを持たずに山に登る、あるいは海図や羅針盤を持たずに航海に出るようなもの。

「どこに行けば良いかわからない」状態を解消するためには、自分の頭の中で羅針盤を描き、大海原に方向性を示さなくてはなりません。
まさに「ディレクション」の真骨頂と言える部分です。

さて、クライアントさんからはノーヒント。

では、どうするのか?

今回の場合は、脳内に想定ユーザーを生み出し、その人がほしいと思えるものを作る。ということにしました。
クライアントさんではなく、この場合だと「腕時計」を使用するエンドユーザーをイメージし、その人が欲しそうなものを具現化する、という作業を行うわけですね。

そのため、今回は「ターゲットの絞り込み」から行います。

まず、「Office io」のデザインした時計を欲しがりそうな人をイメージ。

Art × Design を掲げ、かなり前衛的なデザインを提供するioですから、おそらくこれを欲しがるひとは「現代的」であり「未来的感性」が高く、また「人とは違うもの」を欲しがると想定しました。

クライアントさんとの会話の中にあった「3Dプリントで在庫を抱えない」といった未来的な要素や、「海外での販売に力を入れる」といったグローバルな要素もキーワードとなりました。

イメージとしては、現代の世界を飛び回るアジア人のビジネスマン。
デジタルガジェットを駆使し、情報のアウトプットやインプットに余念がなく、感覚的にも新しいもの好き。
一方どこかで情緒あるものを好み、精神文化も大切にしたいと考えている。
そんなイメージです。

「時間」をデザインする。

さて、おおよそのターゲット像が見えたところで、次はデザインのコンセプトを考えていきます。

コンセプトとは??
ボクの中では「クリエイティブがそうであるべき絶対的理由」として、いまのところはとらえています。
その絶対的理由を導きだすのが、今回の最大の仕事とも言えます。

ここを設計するのが一番楽しく、また苦しい部分でもあります。

それを導き出すために、いろいろと思考を巡らし、掘り下げます。

時間とは何か?
腕時計とは何か?
なんのために必要か?
何が必要か?

これを繰り返すことで、コンセプトが導き出されます。

ボクの中の思考としては、ざっくり以下のような感じでした。

おそらくこの腕時計を使う人はバリバリのビジネスマン。腕時計はしていても、それは時間を見るためではなく、ファッションとしての腕時計の可能性が高い。
つまり、オメガやロレックスといった「高級品を身につけられる」という価値とは別の価値を提供する必要がある。

その中で、ある仮説をたてます。
それは現代の忙しく働くビジネスマンの抽象的イメージでした。

「時間の大切さを知りながらも、時間に押し流されてる。」

そこから転じて、もっと時間を大切にしたいという思いが強くなり、そこから導きだされた答えは「時間を大切にする時計」でした。

大枠で、コンセプトの方向性が見えました。
そして、「どんなビジュアルなら、それを表現できるか?」を突き詰めます。

一見、ものすごく難しそうなこの課題ですが、実は偶然、いや、奇跡的な展開から一気に決着することになりました。

ビジュアル制作との科学反応

ちょうど同じ時期、Office io の代表であり、デザイナーであるハナさんが、「自然をモチーフにした作品」を自主的に制作し、Twitterなどで発表していました。
それは海や空や雲や、石や木々などをシンプルな線で描画したものでした。

その中で、ふと「年輪のデザインが気に入ってるから、どこかで作品にしたいな…」という趣旨の発言をします。

これが今回のコンセプトとドンピシャではまりました。

年輪はその名の通り、一年にひとつ輪を刻み、そこには過去が累々と連なっています。
自然界で唯一、時の経過をビジュアル化しているものです。

ビジュアルからの逆算で、そこにたどり着いた瞬間、すべてのパズルのピースがかみ合いました。

描くべきは、年輪です。

コンセプトに落とし込む

これらの思考を経て、ボクが作成したコンセプトがこちらです。

——

コンセプト:「刻-Toki-を刻-Kiza-む」

流れるように進む時間。
とかく現代社会は忙しい。

時の流れは、日常に忙殺されていると意識から外れる。
慌ただしく目に入れる腕時計の文字盤。
単なる数字の羅列。
集合や締め切りのためだけの記号。

時がただ消費され、そこに残るものはあるのか?

もっと、「トキ」を大切にしよう。
時計の盤に目をやった瞬間、そこに時間の存在を強く感じるように。

「トキ」は有限だ。
だからこそ意識したい。

「トキ」を、「時」ではなく、「刻」として、その腕に刻む。
逃してはいけない。
刻は本来、とてもエゴイスチックで、主観的なのだから。

モチーフ:「年輪」

年輪はその名の通り、1年に1つの輪が歴史となって刻まれる。
自然界の中で、時間の流れを視覚的に表現している唯一無にのツールとも言える。
年輪の内側から外側へー
内側は過去。過去を無かったことにはできない。過去もしっかりと、確かにそこには刻まれている。
その過去の周りを囲むように、現在が何重にも重なる。
現在を積み上げることでしか、未来はやってこない。
未来を意識するということは、過去と現在の積み重ねの先を意識するということだ。
未来は自然とやってくるものではない。
積み上げられた年輪だけが、今日の未来を創るのだから。

こうして、Office io として初となる、文字盤のデザインモックが完成しました。

本来の流れであれば、コンセプトを打ち立てて、そこからビジュアルをイメージし、その間をなんども往復しながらクリエイティブを仕上げていく感じになります。

ところが、今回のクリエイティブはコンセプト側とビジュアル側、両サイドから一気に本質へと歩み寄った、非常にレアなケースとなりました。
しかし、出来上がってみれば、「io」の腕時計としてはこれ以上ないくらい完璧にハマった作品となったように思います。

毎回この作り方ができる訳ではありません。
ですが、こうしたアプローチもあるのだとういう部分では、自分自身もとても勉強になった案件でした。

さて、現在こちらのコンセプトは企画書としてクライアントに提出済み。
この腕時計を手にして、自分の左腕に「時を刻む」日は来るのでしょうか?

今後の展開に期待です。

ABOUT ME
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Andy
we.編集長/Design Offiice io COO./Creative Director|東京⇆京都の2拠点生活。| 企業の経営課題を解決するデザイン・コンサルやクリエイティブ・ディレクションやってます。|ミニマル思考と独特の着眼点で「?」を「!」にする発想・提案が得意。|日本のビジネスにクリエイティブの革命を起こしたい。