最近、「ヒアリングが苦手」とか「どうして良いかわからない」みたいな質問をもらうことがあります。
ヒアリングが苦手って言う人は、聞くべきことを間違ってる可能性があります。
例えばウェブサイトをつくるとして、ドメインやサーバーの情報、記載内容はもちろん大事だし、明確にしておく必要があります。
サイト制作の目的やターゲットも明らかにしておきたいですよね。
でも、実際の打ち合わせの場で、後からメールでも聞ける共通情報だけを聞くのはすごく時間が勿体無いとボクは考えます。
目的やターゲットを「言われたことだけ記載して持ち帰る」だけならメールの方が効率的です。
大事なのは、その奥側にある「鮮度ある情報」です。
今回はそのあたりを踏まえ、「ヒアリング」についての本質的な考え方を紐解いてみましょう。
なんのためのヒアリングなのか?
ヒアリングを効率化するため、会社で共通のヒアリングシートを使用している企業さんも多いと思います。
ヒアリングシートは情報共有をするためには必要ですし、モレ、ヌケの防止には最適ですね。
ぜひ上手く使って行きたいツールです。
一方で、「そのシートを埋めること」だけに集中してしまうと、それはそれでヒアリングの本質からずれてしまう危険性もあります。
冒頭でも言った、「聞くべきこと」を聞けてないままに満足する可能性があるからです。
まず、大前提として考えなくてはダメなのは「なんのためにヒアリングをするのか?」という根本の部分です。
ウェブサイトをつくるため。
うん、そうでしょう。
そうだけど、その意識ではヒアリングの入り口としては50点くらいかな、とボクは思うのです。
なぜか?
そこがヒアリングに入るより前に重要になる部分です。
そもそも、ウェブサイトをつくる。のはなんのためか?
大体はクライアントの要望ですよね。
では、クライアントのためにつくるのか?
そうではないですよね。
おおよその案件は「ユーザーのために、クライアントの望むサイト」をつくるはずです。
これ、同じようなことを言っているようで、目的意識の深度が違うのがわかりますか?
・ウェブサイトをつくる
・クライアントの望むサイトをつくる
・クライアントの望むユーザーのためのサイトをつくる
並べてみると分かりやすいですね。
目的の解像度がぜんぜん違います。
この大前提を意識してるかしてないかで、同じヒアリングシートを使ったとしても、ヒアリングの精度、深度、確度が異なるのは当然ですよね?
これは日常でも同じことだと思います。
例えば家族や恋人に「日曜どこに行きたい?」って質問されても、その大前提が明確でないと答えにくくないですか?
もし日曜が何かの記念日ならちょっと良いレストランとか、思い出の場所とか、そんなイメージが湧くはずです。
普段の日常の延長で、二人でのんびり過ごす前提なら、近所の公園とか、海辺を散歩するとか、また別の想定ができるでしょう。
質問する側の目的意識、目的の解像度が高くないと、答える方も答えが曖昧になるのは当然です。
例えば、ヒアリングシートにある通りに質問をした場合、クライアントは「ターゲット」を「主婦」と答えるかもしれません。
ヒアリングシートの項目はそこで埋まります。
でも、クライアントの形骸化された「目的」や「ターゲット」を聞くだけで良いのか?
そうではないはずです。
なぜ「主婦」なのか?
どんな「主婦」なのか?
どれくらいのキャリアの主婦なのか?
専業なのか、兼業なのか?
子供はいるのか、いないのか?
いくらでも掘り下げる項目は出てきます。
これをしっかり共有できてるかどうかは、今後の制作に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。
「ユーザーのため」に「クライアントの望むウェブサイト」をつくる。
これを意識すれば、ユーザー心理を頭の奥に置きつつ、クライアントの望むサイトの目的やターゲットのさらに奥の情報にアプローチしたいと考えると思います。
その場合、引き出せる情報の「鮮度」が違うのは当然です。
ヒアリングシートを使うと、情報のヌケ、モレは減りますが、そういった深い部分への意識が薄れがちになります。
特に、ヒアリングに慣れないうちは記載することに意識を持っていかれるからです。
ヒアリングの前の大前提として、まずは聞く側の意識として、目的の解像度を高く保ちたいものです。
テキストではわからない部分をヒアリングする
さて、ではどうやってそのヒアリングをするのが良いのか?
ここはすごく概念的なので説明はめっちゃ難しいです。
なんとなく頭で理解しつつ、あとは実際の現場で磨き上げてもらうしかないかなと思います。
とはいえ、知ってるのと知らないのでは今後に大きな差が出るはず。
出来るだけ言語化して解説してみますね。
例えばのどこかのレストランで、お客さんが滅茶苦茶怒っているとします。
「なんだこの店は」、「なんだこの料理は」みたいに、いろいろなことを言っている。
でもそれを見ているだけではなぜ怒っているのか普通はわからないですよね。
「この人怒ってるな」っていうのはわかるけど、何を理由に起こっているのかというのはちゃんと理由を分解してあげなきゃいけない。
例えば「なんだこのクソ料理」っていう言葉だけだと、料理が不味そうな気がしちゃう。
でも、実はその人は店に入ったときの店員の対応が悪かったりとか、料理が出てくるのが遅すぎたとか、頼んだものが違うものが来ちゃったとか、いろんな怒っている可能性があるわけです。
それを「あーこの人怒ってるな」で終わるんじゃなくて、なんで怒ってるんですか?何がだめでした?どうすればよかったですか?っていうところはどんどんどんどん掘り下げていくっていうのが本質を聞くということですね。
怒っている理由がわからないと解決してあげられない。
「飯がまずい」って怒ってるけど、本当は店員の態度にイライラしてるんだったら謝るべきはそこじゃないわけです。
「失礼があって申し訳ございませんでした」って話をしなきゃいけないから。
これは感情を出してるからまだわかりやすいですが、クライアントさんはビジネスベースに話をしてくるからもっと解りにくい。
その人が本当に望んているもの、解決して欲しい課題の根っこの部分まで、しっかりと掘り下げてあげる必要があります。
なので、真にヒアリングすべきは、ヒアリングシートの項目から派生する、もっと奥深いクライアントさんの深層心理だったりするわけです。
これは大枠で「課題解決」としてますが、「ウェブサイトをつくる」とか「ポスターをつくる」という枠が決まっていても同じです。
この本質部分が深堀りできていないと、デザインを提出したときに「これもいいですけど…違うのを見たいですね」みたいな感じになります。
よくあるやつです。笑
これは、結局初校の時点で先方の求めるテイストの本質がスパッと決まっていれば、言われないポイントだと思います。
そこが明確に決まってないから、先方の求めてるものとどこかズレてるから、「ちょっと違うのが見てみたいな」って言われちゃうわけですね。
具体的に掘り下げる
では、実際にはどうやって質問しながら掘り下げたら良いのでしょうか?
例えば、クライアントが「かっこいい」デザインが良い。と言ってきたとします。
ヒアリングシートにはデザインは「カッコイイ系のデザイン希望」と記載するでしょう。
でも、そこで終わってしまったらヒアリングではありません。
どう一歩踏み込むか、そこからがヒアリングなのです。
クライアントの言う「カッコイイ」はあくまでスタート地点を確認しただけです。
まずはクライアントのイメージする「カッコイイ」を明確にしないとデザインは進みません。
「カッコイイ」の概念なんて千差万別。
人の数だけ答えがあるからです。
それをお互いの共通認識ビジュアルになるまで落とし込みます。
すごく極端な話、同じ「カッコイイ」でも「エグザイル系」をカッコイイと言う人もいれば、「ジャニーズ系」をカッコイイと言う人もいるわけです。
これがデザインが上がった後の話だとどうでしょう?
ゴリゴリのエグザイル系デザインを持って行っても、クライアントが求めるものがジャニーズ系だったとしたら…
間違いなく。
「え?このデザインじゃないです…」
となりますよね?
いや、「ジャニーズ系」はカッコイイではなく、かわいいですよ。
と言っても始まらない。
これは感性なので否定する部分ではありません。
大事なのは制作に取り掛かるより前にちゃんと「カッコイイ」=「ジャニーズ系」と言う意識がすり合わせられていたかどうか、です。
これこそがヒアリングの一番大事な部分です。
ボクはこの掘り下げによくA or B の質問を使います。
カッコイイ系のイメージとおっしゃいましたが、例えば「エグザイル系」と「ジャニーズ系」だと、どちらのイメージが近いですか?
なるほど、ジャニーズ系ですか。
では、ジャニーズ系の中では、「嵐系」の柔らかい感じと、「KAT-TUN系」のギラった感じだとどちらですか?
なるほど、KAT-TUN系ですね。
みたいに。
仮説と検証を繰り返すイメージです。
この質問だと。エグザイルほどゴリゴリではないけど、嵐まで甘くはいかず、ややエグザイル系に振り戻した「KAT-TUN系」を探り当てたことでかなりデザインイメージが狭くなっているはずです。
もっと突き詰めるなら、「KAT-TUN」の中でも、亀梨系のセクシーカッコイイですか?中丸系の癒しカッコイイですか?それとも上田系のオラカッコイイですか?
と掘り下げていきます。
(例え話すぎてわかりにくくなってきましたが、デザインの話をしています・・・笑)
ちなみに、これはあくまで仮説と検証なので、最初から「いや、エグザイルでもジャニーズでもないんだよね・・・」と言う答えが返ってくることがあります。
そんな時はまたこちらから選択肢を出します。
では「韓流系のカッコイイ」と「時代劇系のカッコイイ」だと、どちらが近いですか?
以下は同じです。
この仮説と検証をベースに、クライアントの求めるイメージが具体的に頭に浮かぶまで、ヒアリングを繰り返します。
イメージの具現化をするためのエレメンツを探す感じですね。
最終的にはピンタレストなどで実際のデザインを提示しながら、「この方向で間違ってないですよね?」とクロージングします。
ちなみにこれ、最初からピンタレストを提示したら早いのでは?
と思うかも知れません。
でも、そうしてしまうと共通理解部分をすっ飛ばしているので、担当者の好みが先行して、本来の目的とは別のデザインを選んでしまう場合があります。
大事なのは「概念の言語化」を行った後に「デザインを選ぶ」ことです。
この手順も実はかなり大事なので、これはデザイナーに限らず、ディレクターも営業マンも、ヒアリングを行う人間はみんな意識しておいたほうが良い部分だと思います。
例え話が雑で伝わったかは不明ですが、少しでもみなさんのヒアリングの助けになれば幸いです。
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