ヒアリングが難しいという声が相変わらず聞こえてきます。
うん、確かに難しいですよね。
正直、何が正解なのかもわからないわけですから。
営業電話を100件かける!とか、今月の請求書を作成する。みたいな数字や定量がある方がわかりやすい。
それにくらべると正解が全く見えないヒアリングは真っ暗闇とか、濃い霧の中を手探りで歩いている感じかもしれません。
仮に時間が来てヒアリングが終わっても、本当に必要な情報が手に入ったのか、不安で不安で仕方ないということもあると思います。
さて、一口にヒアリングと言っても、実はその「要素」はまだまだ因数分解できるんです。
相手から情報を「収集」して、その情報を「整理」して、さらに「分析」する。
で、それを元に最終的に適切な「表現(アウトプット)」にまで落とし込む必要があるわけです。
この、表現(アウトプット)にたどり着くための事前準備に当たる「収集・整理・分析」がざっくりとしたヒアリングの全貌です。
ヒアリングが苦手。と考えるひとは、みんな「収集」だけに集中しがちかなと思います。
でも、実は情報の「収集」はちゃんとできているのに、「整理」が苦手で取りまとめられてないかも知れません。
「収集」と「整理」まではできるのに、「分析」が苦手でその情報から本質を抜き出せていないのかも知れません。
つまりは、この事前準備のどこか(あるいは全部)がうまくいかないから、適切な「表現」できていない。
なので「ヒアリングは難しい」と一括りになってしまいます。
今回は「ヒアリング」というざっくりとした概念を因数分解して、それぞれに何故そのパートが苦手だと感じるのかを考えてみましょう。
「収集」が苦手
まず、入り口の部分ですね。
単純に収集が苦手な場合、質問がクライアントさんに対して「一問一答」の形式になってないでしょうか?
一問一答で質問が終わるのであれば、それはメールで聞いても同じ回答が届く可能性が高いです。
なんならテキストでもらう方がたくさん情報がくる場合だってあります。
でも、本当に欲しい答えが1回の質問で返ってくることは少ないんです。
ヒアリングで大事なのは、クライアントが抱える課題や願望、イメージや抽象概念を引き上げて、共通言語化すること。
これ、言葉で言うと難しいですが、シンプルに言うなら「クライアントのやりたいことを他人に説明できるように情報化する」ということですかね。
そうでないとディレクターとしてはデザイナーに説明できないし、デザイナーならアウトプットに持っていく具体的なイメージができていないということです。
例えば、ドメインを何にするかとか、公開日をいつにするかとか、そんなメールで済む情報はヒアリングとは呼びません。
事前に送付したヒアリングシートとか、メールのテンプレで済ませましょう。
これはクリエイティブの内容についても同じです。
「メインカラーは何がいいか」も、クライアントさんが「青」と答えたからそこで質問終了としたら、やはりヒアリングとは言えないと思います。
大事なのは、「色は青がいいな」と言ったとき、クライアントの中で「なぜ青がいいと言ったのか」をちゃんと具現化、言語化してあげることなんです。
例えばボクなら、クライアントさんが「カラーは青」と言ったら、その思いと理由を深掘ります。
大前提として、単純にコーポレートカラーだからということもあるでしょう。
では、なぜそのコーポレートカラーにしたいと思ったのか?
そもそも、なぜコーポレートカラーは青なのか?
パンフレットやサイトに記載されてる表面上の理由以外のものはないか?
青に他にどんなイメージを持っているのか?
青をメインカラーにすることでどんなイメージをターゲットに与えたいのか?
みたいにどんどん深掘ります。
ちなみに、こうした質問にも最初から想定質問を準備したヒアリングシートを使用するのはアリですが、それに頼り切るのは危険です。
ヒアリングシートは便利だけど、それを埋めることに集中しちゃうと肝心な「質問のラリー」ができなくなるからです。
大事なのはシートの空欄を埋めることではありません。
クライアントの本質にどこまで踏み込めるか、です。
「収集」は広さよりも、「深さ」が大事だとボクは思っています。
自分ではなく、相手のために質問しましょう。
一問一答ではなく、会話を意識することで、クライアントさんが求めるぼんやりしたイメージをどんどん言語化していくわけです。
「整理」が苦手
情報はたくさん集めたけど、それをうまく整理するのが苦手という人もいると思います。
その人は、単純に「ノイズの集めすぎ」かも知れません。
話が盛り上がるのは良いことですが、それが本当に聞きたい話題やテーマなのかは常に冷静に判断しないと危険です。
簡単に言うと「意味のない会話」になっちゃうパターンですね。
膨大な情報量を持ち帰った割に、どれが大事なのかイマイチわからない。
とても盛り上がったから、その思いをデザインに落としこもうとして全部がガチャガチャになっちゃう。なんてこともあるかと思います。
いわゆる情報過多です。
もちろん、事前情報が多いことは良いことです。
でも、整理されていない情報はデザインには落とし込めません。
だから大量の情報から不要なものを「切り捨てる」力が必要です。
ちゃんと本質とノイズを切り分けられるならOKですが、ノイズを切ってみたら肝心な本質が何もなかった、みたいなことになっても失敗です。
ちゃんとヒアリングの最中に、ある程度の必要情報整理を意識すると良いと思います。
例えば、先ほどの「メインカラーが青」の場合、ボクならヒアリングの時点でさらに青の配分量のイメージすり合わせにまで踏み込みます。
全面青にする。
半分くらい青にする。
ワンポイントで青くする。
これくらい極端に違う3つの参考サイトを見せながら、さきほど聞いた「どんなイメージをターゲットに与えたいのか?」を具体的にした上で、クライアントとの認識を擦り合わせてしまいます。
全面だとかなりインパクトが強く、半分くらいなら爽やかに、ワンポイントなら誠実、謙虚な印象を与えることができるでしょう。
また、この時点で青の色味にも踏み込みます。
濃い青で全面なら深海とかのイメージが強そうです。
同じ海の青と言われても、沖縄の海と冬の日本海ではどえらい違いがあります。
逆にワンポイントでもパステル系の青なら誠実よりもポップさが勝る可能性が高い。
そして、何より大事なのが、クライアントさんは実は海の青ではなく、空の青をイメージしているかも知れない。という可能性です。
それも合わせて探ります。
で、あ、海じゃなくて空の青ね!と、わかった瞬間にまた深掘りです。
どんな空なのか?を具体的なイメージが整うまで探るわけです。
こうした条件と情報の整理を行いながらヒアリングを進めます。
コミュニケーションが得意な人は、とにかく話はたくさん聞けると思います。
必然的に持ち帰る情報は多い。
でも、情報の整理が苦手だった場合は要注意な訳です。
例えば「沖縄の海」の話でめちゃくちゃもりあがって、「青」という言葉だけを持ち帰って、デザイナーに指示をだしたら、たぶん青く澄んだ楽しげなウェブサイトデザインが上がってきますよね?
でも、本当はクライアントさんは「明け方の空の重く澄んだ青」をイメージしていたとしたら?
空の話はぜんぜんしてないとすると、全く本質の部分をヒアリングできてなかったことになります。
どれだけ情報が多くても、正解が入っていないのでは整理してもムダです。
そのまま沖縄の海の青で持っていくと、クライアントさんはきっとこう言いますよね?
「う~ん、悪くはないんだけど・・・なんか違うんだよね・・・」
情報整理ができていない。
本質を確定できていない。
これがクライアントさんの言う「なんか違う」の正体です。
話が盛り上がったからヒアリングがうまくいった。と思うのはちょっと軽率ですね。
ヒアリングに当てられる時間のうち、どこの質問にどれだけ時間を割くかはすごく重要です。
タイムマネジメントも合わせて意識しましょう。
「分析」が苦手
情報も十分にある。
内容もちゃんとクライアントさんのイメージを捉えてる。
でも、その情報をうまく分析できないと、これもまたヒアリングとしては一歩足りないものになる可能性があります。
分析とは何か?
集めて整理した情報に優先順位をつけて尖らせることです。
こちらの図で見たときの3つ目ですね。
つまり、集めただけの情報を並べ替えて整理したら、何を重要なものとするか、プライオリティ(優先順位)をつける、と言うことです。
ここがないとメッセージや訴求の強いクリエイティブは生まれません。
いわゆる「刺さる」「刺さらない」の部分です。
この優先順位も、ヒントを出してくれるのはクライアントです。
ターゲットは誰か?
訴求したいポイントはどこか?
伝えたいメッセージは何か?
当然ですが、直接聞いて出てきた答えをそのまま受け取ってもあまり意味はありません。
本当のイメージはその言葉の奥に隠されているからです。
ターゲットがOLさんだとしたら、それは丸の内OLなのか?港区女子なのか?あるいは郊外で働く上昇志向のあるOLさんなのか?
こうやって絞り込んでいくだけでもデザインの具体性は上がると思います。
情報の重要度が見えるからです。
大事なのは、抽象から始まる質問も、できるだけ最後は具体的な質問にまで落とし込むように意識したいところです。
例えばあなたなら、「ランチ、何が食べたい?」って聞かれるのと、「カレーとラーメンどっちが良い?」って聞かれるの、どちらが答えやすいかって部分です。
「どちらも違う…」って答えが出てもOKです。
「では、パスタとうどんでは?」と、質問を続けたら良いわけです。
それも違うと言われたら、そもそも麺類じゃないのかな?と仮説が立てられそうです。
カレーでもないなら、もしかしたら軽食を望んでるかも知れない。
この辺りは質問を繰り返すことで浮き彫りになってきます。
ヒアリングが苦手という人は、一度に全部を聞こうとしすぎな傾向があります。
でも、なかなか人はそこまで語れません。
逆にたくさん話してくれる人でも、こちらが欲しい答えを出してくれるとも限りません。
こちらはランチに何が食べたいか知りたいのに、カレーの作り方を延々語られても困るでしょう。
ヒアリングは仮説と検証を繰り返しながら、共通言語というゴールにまで導いてあげる工程のことです。
その過程の最後として、圧倒的にカレーを食べるべき理由、本質を見つけ出してあげる。
それができたらヒアリングは大成功です。
整理の後の分析をお忘れなく。
最後に
ちなみに、クライアントさんに「何をどうすれば良いか」を聞いて、そのまま持ち帰るのはヒアリングではないですね。
「どうすれば良いか」を考えるのがクリエイティブです。
ヒアリングは、それを考えるための種を探す作業。
客観的事実や、発想のための情報を集め、それらを丁寧に整理して、そのデザインやクリエイティブの核を明確にする作業です。
そして、クライアントさんとの共通言語、共通認識をしっかり作り上げてから表現(アウトプット)するわけです。
ヒアリングが苦手・・・とざっくり考えていたとしたら、自分はどこのパートが苦手なのか、今一度突き詰めてみるといいかも知れませんね。
収集が苦手なら、質問の仕方が良くない可能性がある。
あと一歩でいいから踏み込んで聞いてみる。
整理が苦手なら、ノイズとなる情報ばかり集めてないか、一度見直してみる。
分析が苦手なら、「このクリエイティブで一つしか要素を示せないとしたらどれを提示する?」と考えてみると良いかも知れません。
それ以外にも自分なりの解決策や方法論もあると思います。
大事なのは大枠で苦手とせず、もっと細かいところまで分解して苦手を探ることですね。
よかったら、ちょっと試してみてください。
何かのお役に立てたら幸いです。