先日、「ディレクションが苦手な人の特徴」ということで、Twitterにこんな投稿をしました。
ディレクションが苦手な人の特徴
・願望と指示が混在する
・判断に主観と客観が混じる
・同時多発的な情報処理が苦手
・プロジェクト全体を俯瞰できない
・情報連携を自己完結で判断してしまう
・未来から逆算(タイムマシン思考)ができない
・因果関係の整理(バタフライエフェクト思考)ができない— Andy(クリエイティブ・ディレクター) (@we_creat) November 8, 2019
これが思った以上の反響をいただき、自分でも驚いています。
その一方で、「内容が難しくてイマイチちゃんと理解できない」というお声も頂戴しました。
まぁ、当然ですよね。
140文字に無理やりおさまるように書いたこの投稿は、言うなれば本で言うところの「目次」みたいなものです。
もちろん、目次からその内容を類推して理解してもらえる部分もたくさんあると思います。
独自に解釈した方が応用が利きますし。
一方で、解説が足りない、言葉足らずなことも確かです。
そんなわけで、今回は先日の投稿について、ボクなりの考え方を補足解説してみたいと思います。
良かったら、参考までに読んでもらえると嬉しいです。
願望と指示が混在する
ディレクションが苦手、あるいはあまり得意ではない、とされる人の特徴の一つ目は、「願望と指示が混在する」ことです。
例えば
A)「会議中にコーヒー飲みたいなぁ」
B)「会議室までコーヒーを淹れて持ってきて」
の2つの言葉。
Aは願望で、Bは指示ですね。
会議の直前にBを言われたら誰でもコーヒーを準備すると思います。
では、Aを言われた時に、コーヒーを持ってくる人はどのくらいいるでしょうか?
気を利かせて持ってくる人ももちろんいると思います。
でも、あくまで感想や願望に聞こえたら、コーヒーは準備してもらえません。
そんなの当たり前だと思いますか?
でも、実はこのAにあたるような発言をしてしまう人はけっこういます。
コーヒーくらいならまだ我慢すればすむかも知れませんが、ビジネスに直結する内容だとけっこう痛いですよね。
「うーん、このテキストは赤の方がいいかもねぇ・・・」
「一応、2案用意して出したいんだけどなぁ・・・」
もし、この言葉で行動を期待しているならそれはディレクションとしてはNGですね。
願望や期待の域を超えていないものは指示になりません。
「ここのテキスト、赤に変えたものも提出お願いします」
「次回のプレゼンでは2案用意してください」
キチンと指示として伝えましょう。
なんとなく察してくれるだろう。は単なる怠慢です。
部下や後輩が気が利かないのではなく、自分の伝え方が悪いわけですね。
また、単純にテキストだけでのやり取りの場合、本人は指示のつもりでも、受け取った側は願望程度に捉えることもあります。
「時間のあるときにメールの返信してもらえるかな?」
この言葉、裏を返せば時間が無ければメールは返信しなくて良いと取れなくもありません。
「かな?」と聞いているので、「忙しいので無理です」と言われる可能性だってあります。
絶対に返信が必要だと思うのであれば、「明日の夕方までにメールの返信をしておいてください」と明確に指示する方が良いですね。
判断に主観と客観が混じる
2つ目は「判断に主観と客観が混じる」です。
これは少し難しくて、主観の判断そのものがダメ、ということではありません。
あくまで、主観で判断して良い場面か、客観でなくてはダメな場面かをちゃんと分別できるか、という部分です。
例えば、クライアントさんから「次回のチラシはあまりごちゃごちゃしたものにしたくないなぁ」という感想をヒアリングしていたとします。
これはクライアントさんから「チラシはごちゃごちゃさせたくない」という要望があった、という部分だけが客観的事実です。
でも、これを主観的に判断する人は、「今回のチラシはスッキリ、シンプルに白ベースでいく」というふうになります。
自分の考えに脳内変換させちゃうわけですね。
「ごちゃごちゃさせない」のと、「スッキリ・シンプル」の最終イメージが同じであれば問題はないと思いますが、万が一違ったらどうでしょう?
クライアントさん的には、色味はたくさん使って欲しかったけど、写真を整列して、テキストの量を減らしてスッキリ見せたかっただけだったら、真っ白なチラシを持っていくと「なんでこうなった?」となるはずです。
まずはヒアリングで主観が入らないくらいまで「ごちゃごちゃさせない」を具体的に掘り下げておく必要がありますね。
良かれと思って出した指示とか、感情的になって判断する場合にも起こりやすいので注意したいところです。
同時多発的な情報処理が苦手
3つめです。
いわゆる「マルチタスク」と呼ばれるものですが、これが苦手だとけっこう制作進行に影響が出ます。
これは例えば段取りなんかにも影響する部分ですね。
「洗濯機を回している間に、お風呂を入れて、掃除機をかけて、お風呂を止めてから料理をしよう。炊飯器は押し忘れるかもしれないから、朝からタイマーにしておこう。」
みたいな感じのことです。
家事ならまだ脳内で処理できるかも知れませんが、タスク量が増えれば増えるほど、全部脳内で処理しようとするとパンクします。
情報処理が苦手だと感じる人は、一気に脳内で処理をしない仕組みをつくるのがオススメです。
・裏紙やカードに書き出してみる
・スマホで管理アプリを使用する
・情報を整理する時間を確保する
対策としてはこんな感じでしょうか。
それ以外にも、ディレクターは、いろんな知識、経験、感性、思考を駆使することが多いので、情報管理はすごく大切だと思っています。
いまはデジタルガジェットでの管理もしやすくなってありがたいですよね。
ボクの場合は以下のような情報管理の仕方をしています。
macのメモでテキスト情報の保存、編集、更新
Googleカレンダーでスケジュール管理
ピンタレストでデザイン収集、確認
A4のコピー用紙でアイディア整理
手帳でタスク管理
ほとんどPCかスマホで同期をかけて、一元管理で完結させてますが、アイディア出しとタスク管理だけは今も紙を使ってます。
これもアプリとかいろいろ試して、一周回って戻ってきた感じですね。
タスク管理は手帳というか、一日一ページの日記を利用しているのですが、未来の日付が書いているので、未来のタスクをどんどん先送りして記載しておけるのがいい感じです。
いまやるべきことが把握できれば、一つ一つ処理するだけです。
一気に全部を考えようとするのをやめましょう。
プロジェクト全体を俯瞰できない
上記は「タスク」の把握のことでしたが、こちらは「プロジェクト」把握の方です。
上記がミクロ視点だとすると、こちらはマクロ視点というところでしょうか。
いま、自分がそのプロジェクトのどの位置にいて、どう進行していかなくちゃならないかを複数の案件を横断しながら把握しておく必要があります。
そうでないとプロジェクトの進捗判断ができないからですね。
そして、それぞれのプロジェクトが納期に対して余裕があるのか、ギリギリなのかを把握しておく。
これができていないと、例えばデザイナーさんから「すみません、今日提出予定のデザインがまだあがってません・・・」と言われたときにパニックになります。
でも、余裕があれば慌てることなく調整をかけられるわけです。
どこで巻けばいいか、まだ余裕はあるか、あるいは納期そのものを調整しないとダメなのか…
いろんな判断を的確にするためには、全体把握はしておく方が良いですね。
ちなみに、ボクはTrelloを使って各プロジェクトの進捗管理を行なっています。
ポイントとしては「いまここ」と書いたカードをつかって進捗を一括把握できるようにしている部分です。
これでビジュアル的に、感覚的にプロジェクトの進行把握ができるわけです。
これらの処理も脳内で全部を把握しようとすると限界がきます。
なるべく早めに俯瞰できるシステムを作ってしまうことがオススメです。
情報連携を自己完結で判断してしまう
これは「報・連・相」と言われる部分になります。
「これは言わなくてもわかるだろう」みたいな思い込みの自己完結は危険です。
「わかってると思うけど」と前置きして伝えた方が良いですね。
言ったつもり、とかはもっとひどいですね。
だいたいそういう時は脳内で勝手に伝達したことにして自己完結しています。
電話なんかで指示を出すときは危険なので注意しましょう。
抜け漏れはいくらでもあります。
電話したあと、簡単に伝言内容をメモしてメールするなど出来ると伝達不足が減りますね。
人は思った以上に伝わらない。と思った方がいいです。
言わずにわかってくれることなんてありえないし、言っても伝わってないことなんてザラですから。
(願望と指示、主観と客観もふくめて)
とにかく情報連携は自己完結せず、周囲にどんどん伝えていきましょう。
メールやメモで書き残すことも忘れずに。
これはボクがまさに先日やってしまったミスの実例ですが、クライアントさんからの修正希望を精査しきれずにコーダーさんに連携してしまい、不要な修正を発生させてしまいました。
もともとその修正についてはクライアントさんと口頭レベルで確認済みで、「修正不要」と結論が出た部分でした。
なので、まさかクライアントさんからの修正依頼一覧の中にその指示が残ったままになっていると思わずに、コーダーさんに連携してしまったのが原因です。
これも、すでに会話済みだから、クライアントさんからのテキストレベルで情報が間違っていることはないだろう、という「自己完結」、思い込みが生み出したミスですね。
もう一度テキストを読み返す、あるいはコーダーさんに口頭で確認を入れる、などすれば防げたミスです。
めちゃくちゃ反省してます。
思い込みや、ちょっとした確認不足からもこうした事案は発生します。
いくら注意しても注意しすぎることはありません。
自戒を込めて。
未来から逆算(タイムマシン思考)ができない
これは少し言い方が難しかったですが、ようは「完成図」からの逆算思考ができるかどうか、の部分です。
例えばスケジュールを組む時とかはこの能力が必須になります。
ウェブサイトをつくるのであれば、ヒアリングにどのくらいかかるのか、デザインは何営業日必要か、コーディングに余裕はあるか、などを考慮します。
ここの思考を放棄する人は、過去や前回のスケジュールをベースに何も考えずにスケジュールを組んでしまいます。
しかし、クライアントのレスポンスやデザイナー、コーダーのスキルはいつも一定であるとは限りません。
案件ごとの負荷や、得意不得意、あるいはチームメンバーとの相性など、いろんな要素が絡んできます。
(レギュラー案件ならまだ問題がないかもですね)
いろんな条件や状況を考慮し、完成図から逆算で思考できるか、はとても大事なことです。
これ、必要な工程を積み上げていってスケジュール出せば、未来から逆算しなくてもいいじゃん。と思うかも知れません。
そうですね、納期が決まっていない案件ならある程度自由に積み上げで準備できるかも知れません。
でも、ビジネスには締め切りがあります。
クライアントがいつでもいいといったとしても、こちらで納期を提示する必要がある。
やはり、いつ頃までに上げたい。という基準からの逆算は必要です。
まぁ、なかなかそう上手くいかないのが仕事でもあるのですが・・・笑
この逆算思考はスケジューリング以外にもけっこう使います。
企業の成長戦略とか、ブランディングとか、プロジェクトが長期のものになればなるほど、解像度の高い未来から逆算して今やるべきことを考える必要があるからです。
なので、まるで未来を見てきたような設計指示ができると理想だなぁ、という思いから「タイムマシン思考」と名付けました。
因果関係の整理(バタフライエフェクト思考)ができない
さて、最後の一つです。
因果関係の整理ができない。これはどういうことでしょうか?
何かを変更したときに、他にどう影響がおきるかを的確に判断できるかどうか、です。
例えばチラシのフォントを大きくして。という指示を出した時、そのせいで他の情報が掲載できなくなる、みたいなことですね。
ウェブデザインだとコーディングにも影響が出たりすると思います。
これは変更がダメだということではありません。
その変更や調整に対して、どれだけの影響が発生するのかをシュミレートできるか、その上で最適な判断をくだせるか、という部分です。
当然のことながら、お金や時間やマンパワーで解決する必要が出てくることもあります。
変更しない方が良い、とクライアントさんを説得することもあるかも知れません。
「なんでもかんでもやる」でも、「絶対に変えない」でもなく、あくまでプロジェクトにおいての最適解を提案できるようになりたいものですね。
目の前のことだけでなく、周囲までの影響を想定して対応する。
小さな蝶の羽ばたきが、地球の裏側で竜巻を起こすことだってあるかも知れない。
そんな事例から、「バタフライエフェクト思考」と名付けました。
まぁ、さすがに蝶々から竜巻までは予見できなくても、チラシにテキストが入らなくなるくらいは予測したいものですね。
ディレクションに正解はない
と、いう感じで、ボクなりの「ディレクションが苦手な人の特徴」を解説してみました。
すべてが完璧にできないとダメ、とかいうことではありません。
人には向き不向き、得意不得意があります。
それを知った上で、ちゃんと対応できれば良いわけです。
個人的にはディレクションってのはプロジェクトをミスなく完璧に進行することじゃないと思ってます。
もちろん出来るならそれがベストなんですが、大概は何かしらの問題が起きるのがプロジェクトです。
それを試行錯誤のなかで可能な限り上手くゴールに導くのがディレクションだと思います。
残念だけど、正解はないんです。
だから常により良い方法を考えるしかない。
でも、自分の得手不得手を知った上で、試行錯誤を重ねることはできるはずです。
そうは言っても、ボクもまだまだ日々試行錯誤にもがいてます。
より良いディレクション、より良いクリエイティブを目指して。
この記事が、そんな一助になれば幸いです。