ディレクション入門

ディレクション入門②キャンプの昼ご飯決めでわかる、ディレクションの質の話。

そもそも「ディレクション」ってなんなの?
って言う、初期疑問に答えるための「ディレクション入門」シリーズ。

今回は根本的な「ディレクション力」ってなんなのか?を「キャンプに行った時の昼ごはん決め」を例え話にして、掘り下げてみたいと思います。

別にこれ、キャンプでなくても良いのですが、たとえ話として。

「ディレクション力」とはなんなのか?

あくまでボクの定義ですが、ディレクション力ってのはある種の「進める力」だと思っています。

推進力とか、牽引力とも言い換えられるかも知れません。

何か物事があって、どちらに進めば良いか迷う時、そこに判断が必要だった時に「正しい筋道」を「誰もが納得する」ように提示し、そちらに全員を導く力です。

さて、仮に30人くらいのグループでキャンプに行ったとしましょう。
高校の林間学校くらいに思ってもらえたら良いかと思います。

そして、先生からこう言われます。
「お昼ご飯は各クラスに任せます。好きな材料を購入して、好きなものを作って食べてください」

さて、みなさんならどうします?

ちなみに、

「食べられたらなんでもいいよ」
「好きにして、決定に従うから」
「誰かがやってくれるんでしょ?」

こう言う考えになる人は、本質的にディレクターは向いてません。

目の前にある課題に対し、最適な解(=出来るだけ多くの人が幸せになれそうな提案)をストレスなく思いつく、あるいは思いつきたいと思う人がディレクター向きです。

これは単純に個々人の感覚、感性の部分で、何が得意か不得意か、向き不向きの問題です。決して上記の人たちが全体の能力に劣るとか、そういう話ではありません。
万人がディレクタータイプではない、と言うことです。

ちょっと話が横道に逸れましたね。
本題に戻りましょう。

意見を聞いたり、多数決を取るだけでは、ディレクターとは言えない。

さて、この課題(キャンプのお昼ご飯を何にするか)に対して、解決をしようと思った場合、まず何をするのがディレクションの正しいあり方でしょうか?

「全員に食べたいものを聞く」と言うのは手段としてはありそうです。

でも、ボクはこれはディレクション力ではないと考えます。

率先して意見を聞きに動くことは一つのリーダーシップですし、課題解決のための手段です。でも、周りの意見を先に聞くことは、少なからずのデメリットがあります。

例えば、仮に30人全員に「お昼は何を食べたい?」って聞いてたら、時間がいくらあっても足りません。

「なんでも良い」と思ってた人から答えを聞き出すのは時間の無駄です。

逆に「これが食べたい」と言葉にしたことで、その人の中での譲れないアイディアに変化する可能性もあります。
(ちなみにアイディアが出ることは良いことですが、この場合は手順前後だと判断します)

ディレクション力とは、もっと本質的かつ直接的に課題解決へのアプローチを内包した提案、牽引であるべきだと考えます。

そのため、いきなり全員の「食べたいもの」を聞く、と言うのは「無駄」が多いわけです。

では、「食べたいものがある人」と声をかけて、意見を募集するのはどうでしょうか?

Aさんからはカレー、Bさんからは焼きそば、CさんからはBBQというアイディアが出てきたとします。

他に意見が出ない場合は、みんなに聞いて回るよりは無駄が少なそうです。
では、この3案からどうやって1案に絞りますか?

多数決?

悪くはない。

悪くはないですが、ベストだとも思えません。

なぜか?

その決定意見はあくまでそれを良しとした人が多いというだけで、全員が納得してその意見に着地したのかは不明瞭だからです。

時短にはなりますが、「そのメニューでなくてはならない」理由は曖昧で、本質的解決に導いていない可能性が高いと言うことです。

昼ごはんならまだ一食我慢すれば良いですが、これが屋外広告のクリエイティブ提案だった場合はどうでしょう?

チームメンバーに「どんな広告がいい?」と聞いて回り、「じゃあ、多数決で決めるね」というディレクションで納得する人がいるでしょうか?

そんな人は「ディレクター」ではないですね。
単なる意見収集係でしかありません。

もっと本質的に全員から「ああ、その昼ごはんが良い!」と思ってもらうこと。
これこそが、推進力、牽引力、つまりは「ディレクション力」だと考えます。

キャンプの昼ごはんをディレクションする

さて、ではどうすればキャンプの昼ご飯をうまくディレクションできるのでしょうか?

ボクだったら「予算感、作業時間、満腹感を全て満たせるカレーにするけど、反対の人います?」って聞きます。

もちろん反対意見を無視するわけではなくて、まずは方向付けです。

ディレクションとは、いきなり答えを出すことではなく、正しい答えに導くこと。だと考えます。

ちなみに、今この提案の時点で「カレー」が正しい答えかどうかはまだ「未知」です。
ボクがまず「カレー」を正しい答えとして「仮定」し、全員でその検証を行う。
そして全員が「正しい」と思うことで、カレーが正しい答えに昇格します。

これがディレクションです。

さて、なんでカレーなの?という部分の説明は重要です。

初期提案なので便宜的に「予算感、作業時間、満腹感を全て満たせる」という理由づけをしています。
この理由付けも大事です。

何か正しいかの拠り所としての「理由」は、何かを提案するときには必ず添えておく必要がある要素です。

ちなみに、どうやってその拠り所を見つけ出すのか?
それは「知識」「経験」「リサーチ」になります。
ここが弱いと、どんなアイディアも立ち所に力を失います。

ボクは過去に「カレーは作るのが簡単」という知識を持っていて、「カレーはお腹いっぱいなりやすい」という経験をしたことがあり、「キャンプの定番」という検索ワードで「カレー」が適しているとリサーチをしている。

だからこの提案ができるわけです。
これは全ての企画、提案に通じる考え方ですね。

反対意見を歓迎する

さて、ボクの「カレーにしよう!」という提案に対して、反対意見が出てきた場合はどうするのか?というのが次に考えるべきポイントです。

まず、そもそもで覚えておく必要があるのは「ディレクションにおいて反対意見は歓迎すべきもの」だということです。

なぜか?

今の自分一人の意見でそのままことが進んでしまうより、いろんな意見を聞き、吟味検討することができた方が「アイディアが強くなる」からです。

つまり、より良いクリエイティブ(この場合は昼食)にするための燃料になるということです。

ディレクションを苦手と感じる人は、みんな、反対意見に怯え過ぎかもしれないですね。
反対意見は否定じゃないんです。
今あるジャストアイディアをよりよくするための貴重な意見、価値観でしかない。
初期アイディアをより強いものにするのもディレクションの必須能力の一つと言えるかも知れません。

ではここで、「いや、焼きそばが良いっ!」て意見が出てきたらどうするのがよいでしょうか?

まず、「なぜカレーより焼きそばが良いか」を話し合う必要があります。
アイディアの交換です。

その時に大事なのが、話すための基準作りですね。
単なる味の好みを押し付けあっても絶対に結論は出ません。
焼きそばがカレーより美味しくない、とかを話しても仕方がないわけです。

本質的議論のポイント選定もディレクションにおける大事な能力の一つと言えそうです。
では、ここではどうした要素でカレーと焼きそばを同じ土俵に乗せて話し合いができそうでしょうか?

・コスパの良さ
・作るスピードの速さ
・手間がどれだけかかるか
・完成後の取り分けやすさ
・満腹具合

他にも色々ありそうです。

そして、議論をするときは、いろんな基準の中で、ベストの基準を見つけ出すことが重要です。
例えば、焼きそばは確かにカレーよりコスパがよく、時短になるかもしれません。
でも、取り分けやすさや満腹具合ではカレーの方が上だと焼きそば派も納得する部分がある、と言うのはよくあることです。

では、最後に議論の決め手となるのは何でしょうか?

それがクリエイティブで言うとことろの「コンセプト」だと思うわけです。

コンセプトがあるからクリエイティブを導ける

さて、いろんな視点からの議論を繰り返し、アイディアが煮詰まってきた時こそ、「コンセプト」に立ち戻ります。

コンセプトとは、ボクの定義の中で「そのクリエイティブがそうであるべき絶対理由」です。
これがブレるとクリエイティブもブレる。

理由なきクリエイティブに魂なし。
コンセプトの無いデザインは子供の落書きと同じです。

では、この昼ごはん作りのコンセプトは何なのか?
おそらく「キャンプのしおり」とかに明記されていると思います。
例えば、「キャンプを通じ、個々の役割を果たし、仲間との共同作業を通じて友好を深める」とか、そんなやつですね。

仮に上記のような目的があった場合、より個々の役割が明確で、共同作業ができそうな方を選べばコンセプト(この場合はキャンプの目的)に沿っていることになります。

なので、その方向へとディレクションします。

例えばカレーならお米チームとカレールーチームの分業が可能で、さらに各食材に担当を振り分けられる、という部分を強調し、個別作業が生む責任感と、それらを合わせることでのカレーの完成から得る共同作業感をプレゼンする、と言う具合です。

簡単に言えば、それぞれの分担を持ち寄ることで、一つのメニューを完成させる。
そのためには材料の少ない焼きそばより、いろんな人にそれぞれの役割を任せられるカレーの方が最適ですよ、と。いうことですね。
(当然ですが、共同作業とは何か、の定義付けも事前に必要です)

で、これにみんなが納得してくれたらカレーにするわけです。
納得してカレーを作るから、不満も少ない。

逆に、焼きそばの方がこの切り口でも魅力的ならボクは迷わずメニューを「焼きそば」に変更するでしょう。

これはブレたんじゃなくて、目的達成のためのベストの選択をする、ということです。

例えば、クリエイティブの表現が映像からポスターに変わったとしても、その目指す効果がその方が高いのであればそれで良い。と言う考え方ですね。

ディレクションとは「正しいゴール」に導くことであり、「自分の意見に固執する」ことではありません。
なので、他人の意見を鵜呑みにするのはもちろん、自分のアイディアに固執しすぎて目的の本質を見失うのもダメです。

今回はカレーと焼きそばを例に出しましたが、ぶっちゃけると、この場合は昼ごはんが「カレー」だろうが「焼きそば」だろうが、それこそ「味噌煮込みうどん」だろうが、なんでも良いわけです。

ただ、ディレクターとしては「そうであるべき理由」を提示して、みんなを正しいと信じる同じ方向に導いてあげないといけない。

そのとき、自分にとって軸となる考え方がないと、なかなか人は納得しないし、ついてこないわけです。

だから最後には揺るぎない「コンセプト」が大事になるというわけです。

今回はディレクション=進める力、として例を出しましたが、他の切り口からもディレクションを語ることはできそうですね。
また思いつきで語るかもです。

みなさんも、ぜひ日常にあるディレクションについて、少しだけ意識をしてみてください。ではでは、また!

 

ABOUT ME
Andy
we.編集長/Design Offiice io COO./Creative Director|東京⇆京都の2拠点生活。| 企業の経営課題を解決するデザイン・コンサルやクリエイティブ・ディレクションやってます。|ミニマル思考と独特の着眼点で「?」を「!」にする発想・提案が得意。|日本のビジネスにクリエイティブの革命を起こしたい。