さて、今回は企業経営者の方や、プロジェクトマネージャーのみなさまへ。
あなたは自分の企業や商品、サービスに対して意識的にブランディングを行なっていますか?
もちろん、ブランディングは必ず実行しなければならないものではありません。
ただ、ブランディングを行わないということは、自分の会社や商品、サービスが消費者からどう見えるかをほとんどコントロールしていないのと同じです。
「蕎麦屋の看板がイタリアンのカラーだったらおかしいですよね?」って説明をすると、経営者の方はだいたい「そんなの当たり前じゃないですか〜」と答えます。
でも、蕎麦屋に見せる努力をしないと、知らないうちにイタリアンのように見られてしまうこともあるわけです。
それくらいブランディングは大事なものだと思っています。
また、ブランディングは一朝一夕に成せるものではありません。
日々その本質を積み重ね、揺るぎないものになって初めて、ようやく世間から「ブランド」として認知されるものになります。
今回は、その取っ掛かりとしての、「本質の見つけ方」を少し掘り下げてみたいと思います。
ブランディングって何だろう?
そもそも「ブランディング」と聞いて、どんな印象やイメージを持つでしょうか?
企業のイメージアップの手段?
商品やサービスをより良く見せるための戦略?
ロゴマーク一つで多くの消費者に認知させること?
どれも間違いとは思いませんが、どれも表面的な部分かな、という気がします。
もちろん、他社の商品やサービスとの区別、認知を高めるための手段であることは間違いありません。
ブランディングが成功すれば、集客や販促はもちろん、広告やPR戦略といったあらゆる部分で有利になるからです。
ただ、それを成功させるためにはその企業の「本質」をキチンと理解し、ブランドとして落とし込むことが必要だと思っています。
ボクの中でのブランディングの定義は「その企業(サービス)ならではの、唯一無二の本質を表現した結果」として捉えています。
なので、表面だけを素敵なデザインで飾り立てても、中身が空っぽだったり、本質が捉えきれていないとしたら、そのブランディングは不十分なものになるだろうと思っています。
飾りるのではなく、むしろ削ぎ落とす。
それこそがブランディングの本質ではないか、というのがボクの持論ですね。
「本質」を見つけるために
では、その「本質」とはどうやって見つけたら良いのか?
多くの場合、企業の「本質」はいろんな要素に埋もれて見えない状態になっています。
それらをヒアリングの中で整理し、丁寧に取り外していくところから始めます。
その際に整理するべき要素は、大きく分けて3種類あると思っています。
・取り上げるべき「プラス要素」
・取り除くべき「マイナス要素」
・どちらにも属さない「ノイズ要素」
本来は取り除くべきマイナスの要素もノイズなのですが、マイナスは裏返したり、マイナス同士を掛け算することでプラス要素になることもあります。
なので、ノイズとは少し別にして考えています。
プラス要素は発見するとそのまま「本質」につながりやすいですね。
その企業や商品、サービスの「最も売り出すべき部分」になるからです。
なので、それ以外を全て捨て去って、ひたすらそれが際立つように設計します。
プラスが見つからない場合は、マイナスを掛け合わせたり、反転させてプラスを導き出します。
「存在感がない。」のであれば「奥ゆかしい」。
「業界内では後進」であれば「伸び代が大きい」。
などです。
もちろん、無理やりひっくり返すのではなく、その企業の「本質」として導き出せることが絶対条件になります。
実例としてのプロジェクトブランディング
多くの場合、本質は課題解決の中に眠っています。
以前、ボクが担当した人材派遣会社さんの新卒採用のブランディングでは、「ターゲットとしている学生が集まらない」という課題がありました。
それを解決するため、まずはリサーチやヒアリングでその課題の原因を掘り下げていきました。
そこで出てきた課題の一つが「採用サイトのデザインテイストがターゲットに一致していない」というものでした。
企業としては、自由な発想で、新しい挑戦をどんどんやりたい学生を求めていました。
新卒から実力次第で給料アップが可能で、上昇志向の強い学生をたくさん集めたかったのです。
ですが、その当時のサイトデザインはいかにもテンプレを使い回したかのような可もなく不可もない「お利口さん」のデザインでした。
質実剛健で生真面目さが売り、みたいなイメージのものです。
このデザイン単体が悪いということではありません。
銀行や証券など、あるいは税理士事務所や法律事務みたいな、しっかりとした業種の採用サイトならアリだったと思います。
ですが、今回はターゲットが違います。
出世欲、自ら稼ぐ、下克上・・・そんなキーワードが合う上昇志向の強い学生さんには適していません。
つまり、コンセプトに対してデザインが合っていない。ということになります。
また、この人材派遣企業さんの場合、集客ツールとして採用サイト以外に、パンフレットと動画も作っていたのですが、どれも別々の会社が制作したもので、「なんとなくトンマナを合わせようとしたんだろうな」とは思えましたが、あきらかに別物の仕上がりでした。
この辺りのクリエイティブ・コントロールができていないのも大きな問題でした。
残念ながら、これではターゲットに明確にメッセージが届くとは思えません。
そこで、コンセプトから掘り下げ、キャッチコピーを作成し、そのコピーにあわせたビジュアル展開を考えました。
この企業さんの場合は、取り上げるべき「プラス要素」が明確だったので、それを拾い上げて光らせているイメージです。
簡単に説明するなら、この企業に入ることで、「新しい目標に向けて輝ける(輝きを取り戻せる)」という部分です。
そこで、キャッチコピーは「Re:Make ー新しい自分に、会いに行くー」としました。
また、デザインイメージは「アパレルショップ」のような雰囲気に一新しています。
これは当時の採用サイトとしてはかなりの冒険です。
社員の方の紹介写真もお決まりの正面笑顔やガッツポーズなどのテンプレではなく、ファッション系の撮影が得意なカメラマンさんに入ってもらって、渋谷や表参道をメインにロケを行い、本気のファッションスナツプのようなものにしました。
このイメージ統一されたビジュアルで、「採用サイト」「パンフレット」「動画」の3種をすべてつくりかえました。
ビジュアルとは「本質」を伝えるための手段です。
「本質」が見えないと「コンセプト」が生まれません。
「コンセプト」がないと「統一感あるビジュアル」ができないのは当然です。
そして、この全体の流れをしっかりコントロールするのがクリエイティブ・ディレクションだと思っています。
さて、この採用ブランディングの結果ですが、実際の選考応募者数は前年から400%UP
採用数も一気に3倍とすることができました。
また、内定辞退者もほぼゼロ。
これは動画で仕事のイメージなどを丁寧に伝えた結果だと考えています。
ターゲットとクリエイティブの整合性
さて、先ほどの実例ですが、これは単に「サイトをオシャレにした」から応募者が増えた。だけではないというのがポイントです。
ちゃんと「ターゲット」に刺さるようにクリエイティブをコントロールできたからこそです。
実は、このサイト制作の前のヒアリングの段階で、ターゲットイメージはかなり絞り込んでいました。
というのも、戦略的に「アパレル業界」を目指したけど受からなかった新卒を狙っていたのです。
人材派遣会社とアパレル??とちょっと不思議に思うかも知れませんが、この二つを希望するときの新卒者のモチベーションを抽象化し、その共通する答えを導きだしているのです。
これは一例ですが、「キラキラした日常」「みんなの憧れになりたい」「上昇志向」「接客(コミュニケーション)が得意」
といった部分ですね。
そこで、そのモチベーションからアパレルブランドなどを狙って受けているけど、就職には失敗して凹んでいる学生にフォーカスします。
大学では人気者でオシャレで通っていたはずなのに、悔しい・・・初めての挫折。
アパレルは無理でも、どこかイケてる企業に入りたい・・・
そんな時、この企業さんの採用サイトを見ることで、アパレル業界以外にも輝ける場所があると気づく・・・というストーリーを描いているわけです。
なので、先ほどのキャッチコピー「Re:Make ー新しい自分に、会いに行くー」に繋がるわけです。
この設計がなく、ターゲットも絞り込めてないままに、ただアパレルショップっぽいデザインにしましょう!とやっても成功はなかったと思います。
もしかしたら、見てくれだけで応募者は増えたかもしれません。
ただし、内定者が増えたり、内定辞退がほとんどいなくなるような結果まではリーチできなかったのではないでしょうか。
まとめ
実例からみてもらいましたが、この考え方はどんなクリエイティブにも有効だと思っています。
例えばボクが「名前をみんなに知ってもらいたいんだけどどうすればいいだろう」って悩んで、デザイナーさんが「分かりましたじゃあ名刺を作りましょう」っていう提案も、ブランディングに繋がる一つの課題解決です。
でも、課題解決の方法としては、それは名刺だけじゃなくてもいいわけですよね?
webサイトを立ち上げましょうでもいいですし、ポスターを作りましょうという提案もできる。
いろんなやり方いろんな考え方ができるわけです。
そんなさまざまな解決策のなかで、最も本質的な課題解決のアプローチを示してあげること。
そして、それを積み重ねていくことこそがブランディングになるのだと思います。
ブランディングに必要なのは、表面を飾るのではなく、本質を掘り下げること。
つまりはこういうことを言いたかったのでした。
そんなわけで、ブランディングやクリエイティブ・ディレクションをするときに、少しだけ気にかけてもらえたらな、なんて思っていたりするわけです。
どうも、ご静聴ありがとうございました。