ディレクション入門

冷静(相場)と情熱(請求)の間。自分のデザインやクリエイティブの価値を数字にする方法。

「この案件の相場って、いくらぐらいですか?」

よくある質問です。

ボクも何度も聞かれたことがあります。

Twitterでも書いたのですが、業界の相場を知るのは大事だと思います。

特に新人のうちや、フリーランスになったばかりの時はそのあたりの指針がないから不安でしょう。

ただ、相場なんてのはあって無いようなものだし、だれかの都合でしかなかったりするし、それこそ「なんとなく」形成されたものである可能性だって高いわけです。

なので、冒頭の質問をされたときにボクは、「まず、自分はどれだけ欲しいと思ってるの?」と聞くようにしています。

この部分、つまり「自分の価値」を考え無いままに、「相場」で見積もりを作ろうとすると危険だからです。

ちゃんと自分の「価値」を数値化しておきたいですね。

これは新人だろうがフリーランスになりたてだろうが、趣味でやってるからだろうが、関係ないことだと思ってます。

自分の生み出すクリエイティブの「価値」について、今回はちょっと具体的に考えてみましょう。

あなたの最低時給はいくら?

まず、自分の「価値」を数値化して、具体的な見積もりに落とし込むためには「根拠となる数字」が必要です。
コレがないと価値の説明が出来ません。

経験値のあるデザイナーさんやクリエイターさんはこのあたりの感覚がすでに自分の中にあります。
なので、案件を相談されたときに何となくの概算が自分の頭の中に浮かぶのです。

まずはこの基準値を作りましょう。

ズバリ、あなたの最低時給はいくらですか?

ここをしっかり考えておかないと、この先の計算が出来ないので、思考停止せずに考えていきます。

まず、東京都の最低時給は2019年10月の現在、1013円のようです。
これより下げる理由はありませんよね?

では、そこに自分の付加価値を乗せていきましょう。

例えば仮に、デザインやクリエイティブを付加価値がない=なんの準備や勉強もすることなく、いつでも誰でも出来る仕事、だと「あなたが」考えているのなら、上乗せはナシです。最低時給のまま計算します。

いや、そんなわけないでしょ!
ふざけるな!
デザインやクリエイティブは特殊技能だよ!

と、思ったのなら、500円でも千円でも良いから乗せましょう。
ここでの新人だから…の遠慮はあまり関係ありません。

自分がこの社会やクライアントさんに提供出来る価値を乗せるわけです。

では、その価値とは何を持って判断すれば良いのか?

簡単に言うなら、都内の最低時給で働くために必要な能力に、さらに上積みされる「クリエイティブ能力とそこへの投資」の部分です。

具体的に上げるとすれば

・制作ソフトが使える(Illustrator/Photoshop/premier など)
・それらのソフトおよび作業可能な環境(PCなど)を持ってる
・デザイン(クリエイティブ)としてカタチにして提案出来る(勉強をしている)
・期待される成果物を求められた期限までに提出出来る能力がある

細かく分解していくとこんな感じでしょうか?

つまりはコンビニや居酒屋のアルバイトをする場合と比べて、事前には持ち得ない能力のことですね。
(アルバイトを否定する意図ではありません。あくまで付加価値の話をしてます。コンビニや居酒屋ではPhotoshopIllustratorは本来使わない前提なので)

また、これは一般的な上乗せの価値で、もっともっと、「あなたならでは」の価値もあると思います。

例えば、オリジナルのイラストを載せられるとか、カラー検定を持っていて、色構成についての提案力が高い、とか、写真撮影から自分でやれるとか

そんなあなただけの価値を書き出して、付加価値を高めましょう。

さて、話を進めるために、ここでは仮に最低時給のおよそ倍、2000円を基準に考えてみましょう。

ちなみに、さっき書き出した価値一覧と照らし合わせて、この2000円が安いと思うなら上げてください。

逆に高いと思うなら下げます。
そこは自分の価値観です。
逆に言うと、この価値はあなたにしか付けられないのです。

で、次に委託を受けたクリエイティブに自分がどれだけの時間がかかるかを考えます。

仮に名刺一枚の発注を受けたとして、それを制作するのに15時間かかると仮定します。

この15時間は、PCの前で手を動かしているだけの時間ではありません。
相談をうけ、どんな名刺にしたいかを打ち合わせ、参考になりそうな名刺のデザインをいくつか検索し、ラフを描き、カタチにして、提案し、修正し、納品データを作り、必要なら印刷まで手配して、納品するまでのトータルの時間です。

全部で15時間。
稼働としてはだいたい丸2日。
少し余裕をみているとしても、まぁ、はじめての仕事にしたら妥当な線かな、と思います。

では、計算しましょう。

最低時給2000×15時間=30000

これがあなたの名刺一枚を作るときの値段。
つまり価値です。

最低時給を1500円にしてたなら22500円。
最低時給を2500円にしてたなら37500円。

こうした計算を繰り返すことで、自分の価値を数値化することが出来るわけです。

時給とクリエイティブの矛盾

さて、初期はこんな感じで時給からだいたいの金額を探し出すことが出来ます。
ただし、いつまでも時給計算するのはオススメしません。

なぜなら、作業スピードが上がると単価が安くなってしまうからです。

はじめの方はまだ良いのです。
15時間作業で見積もって、12時間で済むならそれは能力差分です。
腕が上がったと喜びましょう。

ですが、そのうち半分くらいの時間で出来るようになってきます。

もちろん、15時間のまま計算を続ける手もありますが、そうすると本来二件受けられる名刺の仕事が、スケジュール上は一件しか受けられなくなります。

かといって、頭のなかで、それを調整してたらたぶんいつか破綻します。
破綻まではしなくても、スケジュールに引いた線と実質作業時間がズレてくる。
それを脳内補正で管理するとしたら、やはりどちらにせよ面倒ですね。
(獲得案件数を増やさないのならその限りではありません)

なので、例えば作業スピード(全体)が半分になったら、最低時給は少なくとも倍以上にしましょう。
例えばベテランのデザイナーさんで、名刺は合計4時間もあれば納品出来てしまう人がいるとします。
その人が時給2000円で働くと、名刺制作の価値が8000円にまで下がってしまいます。
これはクリエイティブ最大の矛盾です。

4時間で作れるなら、そこにはスピードとクオリティという更なる付加価値があるわけです。
それをちゃんと上乗せする。

なので、時給1万円で4時間=40000

という式がその人なら成り立ちます。

何度も言いますが、最低時給はあくまで自分で決めるものだということを忘れてはダメです。

これこそが、ボクが相場だけで値段を決めてはダメだと言ってる最大の理由です。

思考停止したまま、相場だけを頼りにすると、最終的に苦しむのは自分だからです。
あくまで自分の作業基準値を持って、自分の価値をアップデートし続けてください。

そして、ちゃんと自分の価値を数値化出来ているからこそ、相場の中で高い安いを知ることができ、無理のない範囲で割引や工数アップの際の価格交渉が出来るというわけです。

見積もりの作り方

さて、最後に見積もりの作り方についても補足しておきますね。

最低時給も決めた。
目安の作業時間も見えた。
金額は三万円だ!

となった時、「これで高いと言われたらどうしよう」という不安に襲われる人もいるかも知れません。
それは単に自分の価値を「プレゼン」出来てないということです。

では、プレゼンはどこでやれば良いのか?
それが見積もりです。

デザイン費三万円。
とだけ書いて出すと、デザイン費への理解が低いクライアントさんは安くしたい!と思うかも知れません。

ボクなら見積もり書にはこう書きます。

デザイン費  一式三万円

作業項目
├①制作設計(打ち合わせ含む)
├②調査、情報整理、ラフ作成(2案提示)
├③デザイン作業(修正二回対応)
├④校正
└⑤納品データ作成(アウトライン済みデータ作成含む)

この作業項目の言葉は何でも良いのですが、自分の作業総量をわかりやすく明記します。
名刺一枚作るのにこれだけの作業が必要だと知ってもらうためです。

また、三万円をこの項目に振り分けて持っておきます。
振り分けは初期の時給をベースにします。

ただし、あえて項目ごとに値段を記載しません。
クライアントからの「その項目(作業)しなくていいから金額カットして」というムダな交渉に巻き込まれないためです。

ただ、自分の中ではちゃんと理由(今回は時給)を基にした各項目の金額を持っておくことが大事です。

なぜなら、値引き交渉をされたときにどの項目なら減らせるかを具体的に考えられるからです。

安くして、に対して
・では、打ち合わせはzoomにしましょう。2千円割り引きます。
・では、提案は1案だけにしますね。3千円割り引きます。
・では、修正回数は1回とさせてください。3千円割り引きます。

みたいな感じです。
自分のためにも金額の細分化はしておくのがオススメですね。

この見積もり例はあくまで参考ですが、少しでも参考になれば幸いです。

あとは経験を積みながら、自分で試行錯誤して自分なりの最適解を見つけてもらいと思います。

なんども言いますが、思考停止で相場金額を請求するようなことはやめましょう。
それは自分の価値を放棄している。
自分が相場より高いのか低いのか、少なくともその基準は知っておいて損はないはず。

ぜひ、まずは自分を見積もりしてみてください。

こちらの記事はもっと大きなプロジェクトの予算を考えるときの参考としてどうぞ

発注者もクリエイターも知っておくべき、予算とスケジュールとクオリティの適切な三角関係。

ABOUT ME
Andy
we.編集長/Design Offiice io COO./Creative Director|東京⇆京都の2拠点生活。| 企業の経営課題を解決するデザイン・コンサルやクリエイティブ・ディレクションやってます。|ミニマル思考と独特の着眼点で「?」を「!」にする発想・提案が得意。|日本のビジネスにクリエイティブの革命を起こしたい。