少し前にこんなツイートをしたところ、結構な反応をいただきました。
❶「素材全支給」を条件に組んだスケジュールに対して、まだ素材提供が完了していないのに、「間に合いますか?」と聞いてくるクライアントがいる。
気持ちはわかる。
でも、間に合うかどうかは素材が届かないと判断できないし、間に合います、と安請け合いするつもりはない。
品質が犠牲になるから。— Andy(クリエイティブ・ディレクター) (@we_creat) June 4, 2019
今回はこの「素材共有と納期」の話をあらためて掘り下げていきましょう。
素材全支給とはどういうことか?
「素材は全支給しますので」とは、よく聞くセリフです。
クライアントさん、もしくは代理店から、先方のイメージするクリエイティブをカタチにしてもらうため、クリエイターにそのための「材料」をお渡しします。ということですね。
これは例えば「ボクが食材を全部買って渡しますから、美味しいカレーを作ってくれませんか?」と言っているようなものかなと思います。
確かに、自分で材料を用意すれば、それをベースに作る料理が大きく外れたものにはならない。と思うかも知れません。
「牛肉」を渡しておけば、さすがに「チキンカレー」は出てこないでしょうし、間違っても「肉じゃが」が提供されることはない、と思うでしょう。
でも、作られる料理が「牛肉カレー」であれば良いのでしょうか?
もっと本質的に大事なことを忘れていないでしょうか?
食材と調理時間の密接な関係
「素材全支給」を条件に組んだスケジュールに対して、まだ素材提供が完了していないのに、「間に合いますか?」と聞いてくるクライアントさんがいます。
ぶっちゃけ、結構多いです。
気持ちはわかるんです。
素材さえ渡せばできるということは、つまり渡した瞬間には出来上がるんじゃないか、という期待や、それまでに下準備をしてくれているから調理は早いはず・・・と思っているのかも知れません。
でも、間に合うかどうかはぶっちゃけ素材が届かないと判断できないし、間に合います、と安請け合いすることも出来ません。
何より、それをやってしまうと品質が犠牲になるからです。
例えば、「食材買ってくるから、18時までにカレーを作って」とお願いされた場合、食材を手にしてからの調理工程を想定して、「じゃあ、15時までには食材届けてね」と約束するのが普通だと思います。
正しい調理工程を考えて、調理する時間をちゃんと計算に入れるわけです。
ところが突如、16時の時点で「今スーパーで買い物してるから、17時に着くわ。18時にカレー食べれる?」って聞かれたとします。
これはさすがに「無理」って答えるのが普通だと思うんです。
でも、その人は言うわけですね。
「でも、カレールーとお米はそっちにあるから、先にそれだけ準備しといてくれたら、あとは野菜を切って、牛肉を鍋に入れるだけだし、18時に間に合うでしょ?」
そうですね。
できることから進めるのはセオリーですし、デザインや動画制作においても先にできることは準備します。
でも、根本的には無理だということもわかって欲しい。
だから回答としては
「そうだね。野菜も切らずにルーの中に放り込んで、完全に火が通ってない生煮えの状態で良ければ出せるよ?」
となるわけです。
これが友人同士のカレーパーティなら笑い話ですみますが、レストランだったらお金取れるでしょうか?
さすがに無理ですよね?
素材連携が遅れるのに、元々の納期を希望するってことは、つまり、生煮え野菜カレーをオーダーしてるのと同じなんだと思ってた方が良いです。
間に合えば良いという考え方は捨てよう
クライアントさんや代理店さんに知ってて欲しいことは「最終納期が間に合えば良い」ではないって部分です。
素材連携が遅れるということはそれなりに何かが犠牲になってる。
それは生煮えの野菜かもしれないし、肉の無いカレーかもしれない。
もちろん、隠し味が無いだけのパッと見ではわからない部分かも知れないですが、確実に予定通りのものではないのです。
もちろん、スピードもクオリティの一部だし、そこに間に合わせるのもプロの仕事の一部ではあります。
でも、間に合えば良いのか?
見た目は普通のカレーだけど、生煮え丸ごと野菜がぶち込まれてる状態でも構わないのか?
クライアントの要望に応えたい。
上司に納期をせっつかれてる。
状況はわかります。
気持ちもよくわかる。
納期通りに進めないと自分の査定も悪くなるのかも知れない。
でも、それを制作の現場で回収しようとすることは、多分なリスクを秘めていることをもう一度思い返してもらいたいと思います。
本当に喜んでもらうべきはクライアントや上司ですか?
そうではなく、お客様であるべきでしょう?
どうせわかりっこないからと、生煮え野菜のカレーを出すことは、制作としても、代理店としても、クライアントとしても本意ではないはずです。
クリエイティブディレクションをしよう
こうした悲劇を生まないためにはどうすれば良いのか?
ちゃんとプロジェクト全体を管理できる人が必要です。
単なるスケジュール合わせの制作進行管理ではなく、素材集めからちゃんと管理ができる、クリエイティブ・ディレクターの存在です。
「予定していた期日に素材が集まらない」とわかった時に、クリエイティブ・ディレクターがやるべきことは、デザイナーにギリギリまで待たせて無理やり納期に間に合わせることではありません。
いかに負荷なく全体をコントロールできるか、そこが腕の見せ所ですね。
スケジュールをずらすことで対応できるのか?
別の素材を手配することは可能か?
スタッフを増やせば短納期でもクオリティ維持ができるか?
どこかに無理をさせて、歪な進行をすることがないように全体を整える。
それこそがクリエイティブ・ディレクションです。
プロジェクトに関わる全ての人ーそれはクライアントから代理店から制作、そしてお客様まで全てーがみんな幸せになれるように。
「クライアントー代理店ー制作会社」が単なる縦割り一方通行の仮説組織にならないように、全体が有機的につながり、一つのプロジェクトチームとして機能できるようにプロジェクトをコントロールする。
プロジェクト全体を俯瞰して、トータルでディレクションするクリエイティブ・ディレクターが必要なのは、そういう理由です。
そしてこのクリエイティブ業界の構造改革は、ボクの目指すところでもあります。
一人では変わらない。
もっと多くの人が、多くの意識改革の中で、こうした取り組みをできる状態にもっていきたい。
まだまだ歩みだしたばかりですが、少しずつ、実例を出せるように頑張りたいと思っています。
そして、この記事を読むことで、一人でも多くのディレクターさんが、同じ意識を持ってプロジェクトに取り組んでくれることを心から願います。
ディレクションって何?って人のためのディレクション入門②