吹き抜ける風に秋の香りが混じり始め、いつしか蝉の声も聞こえなくなった。
高くなった空に、ゆっくり雲が流れていく。
あんなに鬱陶しかった夏の暑さも、過ぎ去ってみるとちょっと惜しい気がしてしまうから、人間ってのはホントに身勝手だなぁと思う。
あなたにとって、この夏は「いつも通り」の夏だったろうか?
それとも「いままでにない」夏だったろうか?
人生を変えたい。
自分を変えたい。
そう願う人は多い。
でも、そうするために動けている人がどれくらいいるかというと、たぶん一握りだ。
いつも言ってることだけど、未来は今日の延長線上にある。
当たり前だけど、今日を積み上げることでしか、未来はやってこないんだ。
だから、過去と同じ今日を未来まで積み上げ続けたら、やってくるのは今日と同じ未来しかない。
変えたいと望むだけでは変わらない。
変えたければ、今日、いまこの瞬間から変えていかなくちゃならない。
これは何も個人だけのことじゃない。
企業だって同じだ。
今、何かを変えないと、未来は絶対変わらない。
悪くなることはあっても、良くなることはない。
ボクがクリエイティブ・ディレクションで入ってる企業さんでは、経営者、管理責任者のみなさんにまずこの話をする。
変える覚悟と、そして実行する意志。
その両方がないと未来を変えることはできないから。
で、変える決意ができたところでお話しするのは、具体的に改革を阻む4つの壁について。
これを言語化して共有していることがとても大事だと思ってる。
今日は、そんな「改革を阻む4つの壁」について、ちょっとだけ紹介してみたいと思う。
新規プロジェクトを阻む4つの壁①市場の壁
だいたいの企業は市場予測がないと動けない。
売れるかわからないものに対しての挑戦が出来ない。
まぁ、当然だよね。
売れるとわかっていたら出すに決まってる。
大事なのはどこまでリスクを背負いながら勝負できるか。
これが出来る経営者や管理責任者は少ない。
だって責任取りたくないもんね。
でも、当たり前だけど何かを変えるときにはリスクはつきものだ。
そのリスクを事前に理解し、うまくコントロールしていくことでしか、新しいプロジェクトは進まない。
「売れなかったらどうするの?」
じゃないんだよね。
まず売るんだ。
極端な話をしよう。
お湯に浸けるだけで焼きたてのたこ焼きになる画期的な商品を発明した。
でも、本来たこ焼きは鉄板焼きで焼きたての方が美味しい。
冷凍食品なら電子レンジを使えば熱々のものが食べられる。
だからお湯で戻すたこ焼きなんか売れない。
というのが消費者の声。
本当にそうかな?
売り出してもないのに、なんでそれが売れないとわかる?
市場調査やアンケートは、いまの世の中でどこまで信用できるの?
なんども言うけど、大事なのは、「売れるか、売れないか」ではなく、「どうやったら売れるか。」だ。
これは無理やり押し売りしたり、薄利多売の価格競争に持ち込むって意味じゃないよ。
その商品の存在価値をただしく理解し、必要とされるところに、必要なストーリーと一緒に届けること。
クリエイティブ・シンキング、デザイン思考をベースとした販売戦略をきちんと考えるって意味。
大量生産して無差別に市場に投下する時代はとっくに終わってる。
そんなのとっくにもう、みんな気づいてるでしょ?
それと同時に、売れなかったときの対策をいくつも考えるのが正しいプロジェクト。
少しでも売れたなら、売れた理由を徹底的に調べる。
何が良かったのか、何がメリットなのか、何が強みなのか。
逆にそれだけしか売れなかった理由も調べる。
何が悪かったのか、何がデメリットなのか、何が弱みなのか。
売って初めて取れるデータがある。
このデータを買ったのだと思えば、売れなかったリスクは一つ減る。
あるいは、全然売れなかったのなら、あえて無償で配るのはどうだろう?
お湯で戻せるなら、電気はいらない。
焚き火ができて、水があれば食べられる。
キャンプに行く人には重宝するかも知れないし、被災地に乗り込む自衛隊の方にも使ってもらえる可能性はある。
買ってまでは要らなくても、無償ならニーズがあるとすれば、その商品に見合うだけの価値付けがまだ足りないってことだ。
もちろん被災地に直接届ける手もあるかもしれない。
食料支援と考えたら、これも一つの投資だ。
そこから新しいニーズが見つかる可能性だってある。
偶然にでも、もしマスコミやSNSで話題になったら、宣伝費として捉えてもいい。
動いたことによるメリットは、後からだっていくらでも出てくる。
大事なのは、この思考を持てるかどうか。
逆に、何もしないならノーリスクだって考え自体がまず間違ってる。
動かないのは単なるリスクだ。
道に迷った時にうろうろせず、一箇所に止まった方がいいのとはわけが違うからね。
特に企業のプロジェクトにおいては、なんのメリットもない。
周囲の状況が変われば、動かないことが一番のリスクになる。
最大の危険思想。
「動きながら考える」
これが今の時代の一番ローリスクなプロジェクト運用法なんだよね。
新規プロジェクトを阻む4つの壁②既存手法への固執
多くの経営者、管理責任者は新しいことをしたくない。
今のままがいい。
だってその方が楽だし、リスクが少ないから。
減点方式の世の中では、手柄を立てるよりミスをしないことが大事なんだ。
そんなマインドでは現状維持がギリギリ。
周りが伸びたら沈むよね。
でも、少し立ち止まって考えて欲しい。
「今までのやりかた」ではもう限界だから新しい方法、プロジェクトを考えたい、試したいんだよね?
それを拒否する理由が「今までのやり方と違うから」ってのでは完全に本末転倒。
矛盾ってやつだ。
何も今までのやり方を全部捨てる必要はない。(その場合もあるけど)
可能なところから試してみればいい。
自分の知っているやり方じゃないと気に入らないって非合理な考えの人もいるけど、そう言う人は時代が見えてない。
既存のビジネスモデルでは限界がきてるから、みんな新しい手を探している。
既存の方法にすがること自体が危険思想だってことは知っておいたほうが良いと思う。
そして、経営者や管理責任者が、口だけで変わる変わるといいつつも、具体的な案については「でも。だって。前例が。」と言ってるようでは絶対に変わらない。
まず、責任者が変わること。
これが企業改革の大前提。
新規プロジェクトを阻む4つの壁③危機感とビジョンの不足
「なんとかなる」と考えがち。
これは経営者や管理責任者に限らず、現場も同様に危険な思考。
自分ごとじゃないちょっとしたミスや、多少の売り上げ低下では危機感を覚えない。
だから改善もしないし、新しいプロジェクトに取り組むこともない。
だって動くにはエネルギーが必要だもんね。
危機感を覚えたら、それは急いでシェアしよう。
ボトムアップでも、トップダウンでも構わない。
危機感を共有できてないと、それを立て直すモチベーションなんて湧くわけがないから。
そして、その立て直しを図るとき、経営者は目の前の数字も大事だけど、企業そのものの未来をどれだけ真摯に考えているかが大事。
それを明確に打ち出すのが「ビジョン」。
今の時代、場当たり的な経営だとすぐに行き詰まるのは当然なんだよね。
それくらいに市場の流れは速くて、いちいちその場で対応していたら疲弊してしまう。
だから、強くてブレないビジョンが大事。
仮に3年赤字が続くと予想できても、4年目に黒字になれば大丈夫と思えるかどうかは、企業にビジョンがあるかないかに繋がる。
遠い未来の成果のために今を積み上げるから、些細なことにオロオロしなくてすむ。
目の前のやりくりだけに追われて出来た赤字と、遠い未来の経営を見据えた足元での赤字。
同じ赤字でも、その本質は大きく異なると思わない?
その場しのぎではなく、投資であること。
それを経営者が理解できているかどうかはものすごく大きな差になる。
そして、その会社で働く現場の従業員さんにも、この危機感とビジョンは一緒に共有しておくのが重要。
外国の寓話で、レンガを積む3人の男の話がある。
一人は何も知らされず、ただ毎日レンガを積んでる。
もう一人はそこに壁をつくるのだと知っていてレンガを積んでる。
最後の一人は、そこに多くの人を癒す大聖堂をつくるのだと喜び勇んでレンガを積んでいる。
これは現代にも通じる、働くモチベーションの話。
会社のビジョンに共感して、今日も精一杯働くのか。
それとも給料を得るために、ただ日々時間を切り売りするのか。
あなたなら、どちらの思考で働きたいかな?
新規プロジェクトを阻む4つの壁④トップ(経営)とボトム(現場)の乖離
どちらかが問題意識を持ったとしても、一方通行ではうまくいかない。
これは本当に大事なことだし、組織が大きければ大きいほど難しいことだと思う。
新しいプロジェクトを動かすときは、危機感とビジョンの共有が重要ってのは③で伝えた通り。
それが共有できたら、次に大事なのが「実行」への意志を伝達すること。
それが一つの企業内でやろうとすると、意外とうまくいかないことが多い。
すごく不思議なんだけど、企業自らがこれを変えるのは実は簡単じゃないんだよね。
だから外部のクリエイティブ・ディレクターが必要になる。
上記の理由を言語化して説明し、トップとボトムの意志をつなぎ、新しいアイディアでリスクをコントロールしながらプロジェクトを遂行する。
もっと言うと、ここまで説明してきた新規プロジェクトを阻む主な課題は、そのまま全部が企業に外部のクリエイティブディレクターが必要な理由でもある。
あくまで第三者が客観的にその企業に今何が足りなくて、何をするべきかを提示する。
その企業の課題を見つけ、ゴールを設定し、ターゲットを定め、最適なアウトプットに落とし込む。
もちろん、改善の具体的なアイディアは企業から出てきてもいい。むしろ出た方がいい。
それらを含めてブレストをはさみながら、どんどんアイディアを出し合う。
そのとき、社員が全員同じ方向を見ていることが大事なんだ。
あとはクリエイティブ・ディレクターが、その中からベストな解決策を体系立てて整理して、実行に移す。
ボクが他企業さんに入ってやってるのは、大まかに言えばそう言う仕事。
ちなみに
いま、デザイン思考を多くの大企業が取り入れ始めてる。
これは当然の流れだと思う。
さっきも書いたけど、既存のビジネスモデルがうまくいかないからこそ、新しいやり方、組織体制、プロジェクト進行が求められてる。
ただ、やっぱりまだ一部の大企業だけがやってることってイメージが強い。
ボクはむしろ、デザイン思考はスタートアップや中小企業がいち早く取り入れるべき考え方だと思う。
特に数十年の歴史がある中小企業ね。
スタートアップは、言っても若い人が多いし立ち上げたばかりの組織だから、自ずと既存のやり方に固執しない。
比較的自由に発想するし、リスクをチャンスに変える力と情熱を持ってたりする。
自覚してなくても、デザイン思考、クリエイティブシンキングをしてる人も多いと思う。
一方で、2〜30年の歴史ある中小企業さんはそこができてないことが多い。
バブルの勢いに乗って企業し、経済成長期はうまくいっていたことが、なぜか今はうまくいかなくなってる。
平成の後半はなんとか綱渡りに凌いできたけど、売れていた商品が売れなくなった理由がわからず、ここからどう経営を立て直していいかがわからない。
なぜか?
当然、社会(消費者)が変わったから。が答え。
大量生産、大量消費の時代が終わって、多様化、個性化の時代に突入した。
モノ消費からコト消費に移り、さらにトキ消費の時代がやってくる中で、いつまでもモノだけ作り続けていたら生き残れないのは当たり前。
だからこそ、目先のコストに囚われたたら、失敗する。
変えるべきは今だけど、それは未来につながる今であるべき。
目の前の今じゃなくて、未来につながる今を変える。
その判断を外部のクリエイティブ・ディレクターを交えて行うようにするだけで、客観的な分析と判断ができるようになる。
少しでいいから新しい取り組みを試すことができたら、きっと未来は変わる。
外部の客観的な目と意見は、何かを変えたい時に絶対に必要なもの。
もし、あなたの会社の経営がちょっとでも息苦しさを感じてるなら、クリエイティブ・シンキングを得意とする人に相談してみると良いかもね。
いままでにない、目から鱗の発想が飛び出すはず。
てか、それがクリエイティブ・シンキングの醍醐味なんだよね。
いつも通りの夏が終わって、秋の足音がしてる。
いつも通りの秋にするのか。
それとも未来のための違った秋にするのか。
抜けるように青い空を見ながら、少しだけ考えてみるのも良いかもね。