ディレクション入門

なぜ、デザインに余白が必要なのかをディレクション目線で考える

余白は大事です。

ボクがクリエイティブ・ディレクションを担当しているOffice ioのデザインもそうなのですが、基本的には「余白」をふんだんに使います。
なぜかと言うと、それが本質(伝えたいこと)の最大の強調になるからです。

何もない空間に、それだけがあるから、人は注目するし、記憶に残ります。
これは以前Twitterでつぶやいたことですね。

主役がひしめく舞台では、誰に注目していいかわかりません。
主役が一人で、舞台の中央でセリフ言うから、そこに注目が集まるのです。
その周囲に余白があるからこそ、観客はその周辺の情景を想像し、思い思いの景色を想像して頭の中に描く。
だからこそ、そのシーンがその人の心に刻まれ、いつまでも残るわけですね。

主人公の心情を語り過ぎた漫画や、ドキュメンタリー番組で説明しすぎのナレーションが心に刺さらないのも同様の理由です。

でも、情報を目一杯詰め込みたいと願うクライアントさんがいるのも事実です。
この気持ちもわからないわけではありません。
余白があるともったいない、無駄が多い、手抜きをしてる・・・そんな風に見えてしまうのでしょう。

ただ、詰め込みすぎても良いことはない
これはクリエイティブの仕事をしている人にとっては共通の思いではないでしょうか?

今回は、そんなクライアントさんに対して、ボクが余白の必要性をどのように説明しているのか、ディレクション目線で少しだけ解説してみたいと思います。

情報貧乏性にならないために

デザインに対して「あれもこれも主張したい」と要望するクライアントさんに、ディレクション目線で余白の重要性説明するときボクが意識していることは3つです。

1)余白こそが強調の最上級
2)人は一度にたくさんのことを記憶できない
3)詰め込み情報は見た目に安っぽさを生む

まぁ、あと、普通にダサい。ってのもありますが、これはボク個人の主観なので、あえて言いません。笑

これはデザインだけに限った話ではないですね。
動画編集やイラストの仕事なんかも一緒だと思っています。

本当に伝えたいことにきちんとフォーカスできていたら、そのほかの多くのものはノイズです。

そのノイズまでも掲載したいと思ってしまう時点で、何かしらの設計ミスがあるということになります。

・ヒアリングがうまくいっていない
・アウトプットの共通言語化ができていない
・単純にスキルが足りていない
・ターゲットの認識がずれている

こうした事前準備のズレや、アウトプットのイメージ齟齬が、クライアントさんに「情報貧乏性」を引き起こすわけですね。

もちろん、これは簡単なことではありません。
丁寧な打ち合わせや、認識のすり合わせなどが必要です。
なので、簡単な打ち合わせで、ちゃっちゃとつくってよ。みたいな流れになったときが一番要注意です。

そう言う意味では、一番大事なのは信頼関係なのかも知れません。
ここを大前提に、それぞれの理由をもう少し詳しく見ていきましょう。

余白こそが強調の最上級

これはミニマリズムにも通じる考え方です。
何かを強調したいのなら、そこに足すのではなく、できる限り引いていく。
その方が一点を強調出来るのです。

花瓶に入った花を強調したいのなら、その周囲には何もおくべきではありません。
間違っても、花瓶に入った花を丸ごと花畑に置くなんてことはしてはダメなわけです。
何を見せたいのか?それがぶれているから、そうしたことが起こります。

もっと突き詰めるなら、見せたいのは「花瓶」でしょうか?
それとも「花」でしょうか?

「花瓶」を見せたいのであれば、花すら活けなくていいかも知れません。
それぞれがそこに活けたい花を想像することで、花瓶そのものが意識に残ります。

逆に、「花」をみせたいのであれば、花瓶は必要ないかもしれないわけですね。
宙を舞う花だけをビジュアルにすることで、見せたいもの(=本質)を圧倒的に強調できます。
なにしろ、そこにノイズがないわけですから。

ただし、ビジュアルだけでは、広告としては伝えたい意図がバラける可能性が出てきます。
受取側の自由解釈に委ねることになるからですね。
だから「コピー」を入れてその思考をガイドするわけです。

例えば、母の日ならカーネーションに「ありがとう。」と一言入れるだけでも十分それが伝わります。
あとはそれが花屋の広告だと仮定するなら、その店なりウェブサイトへのアクセス導線を設計してあげたらOKです。

ここに「今なら30%オフ」とか「閉店セール」とか入れるからノイズが増えます。
果たして、「母の日の花」を「セールで買いたい人」を呼び込みたいでしょうか??
それは本来の目的に沿っているでしょうか??

来て欲しいのは誰なのか?
伝えたいことを伝えるためには、そうした本質の追求が必要になるわけです。

そして、その本質をなるべくダイレクトに伝えたいなら、それだけにする方がいい。

余白こそが、最大の強調とは、そういう意味です。

人は一度にたくさんのことを記憶できない

これは当たり前なんですが、意外とポスターやチラシをつくるときには忘れがちです。

仮に屋外広告だとして、その広告に少々興味がある人でも、それを歩きながら見るのは多くて5秒というところでしょう。
その5秒間で、ターゲットはどれだけの情報を「記憶」できるでしょうか?

見るではなく、記憶する方です。

おそらく1つ。
頑張っても2つくらいが限界じゃないでしょうか?
写メで撮って帰らない限り、そこに載せた情報はほぼムダになるということです。

チラシにしても、なんとか5秒、10秒くらいのもの。
そして「覚えておく」なんてことはほぼありえません。

これは動画でも同じです。

一つの画面から伝えられる情報は多くても3つくらいです。
動画はそれを連続できる強みはありますが、それでも詰め込み過ぎては理解が追いつきません。

例えば、東京スカイツリーの画像を見せながら

・高さは634m
・2つの展望台
・耐震構造は五重塔を参考にした
・夜はライトアップされる

と一気に情報を詰め込まれても、記憶には残らないわけです。

「高さは634m」と説明しながら、足元から頂上へパーンアップ
「二つの展望台」と説明しながら、そこからの景色の違い
「耐震構造は五重塔」と説明しながら浅草寺の塔越しのスカイツリー
「夜はライトアップ」と説明しながら夜のスカイツリー

というように、一画面、一情報で説明を重ねていく必要があります。
これで視聴者は「なんとなく記憶に残す」ことが出来るわけですね。

一度に多くの情報をあたえることは、逆転して何の情報も与えていないことになります。
覚えてほしい情報は厳選しましょう。

詰め込み情報は見た目に安っぽさを生む

これは心理効果になると思うのですが、バーゲンや大安売りのチラシは情報が盛りだくさんです。
まさに情報貧乏性。

もちろん、大安売りやバーゲン、閉店セールなどはそうした狙いをもってデザインされているから構わないのですが、そうではない場合に情報を詰め込み過ぎそうになったときはこれを思い出して欲しいと思います。

ごちゃごちゃしたものは「安っぽさ」を生み出します。

例えば、テレビドラマのセットを組むとき、「お金持ちの家」をつくるときは床面積を広くし、余白を十分にとり、限られた家具だけを置くようにします。
逆に「お金がない家」のセットを組むときは、とにかく不要なものを詰め込み、余白をなくし、狭苦しさを強調します。

人は余白と余裕に高級感やゆとり、安心を感じ、狭苦しさや詰め込みに心理的な圧迫や、余裕のなさを感じるからです。

自社製品をどうアピールしたいかはもちろんありますが、仮にも高級感や安心感を与えたいと思っているなら、情報をどう減らすかを考えるべきだということには気がついてもらえると思います。

わかりやすいのが「Apple Store」と「ドン・キホーテ」のイメージの違いでしょうか。
AppleStoreは整然とした店内に、それぞれのガジェットが余裕をもって配置されているのが特徴です。
それにより、余裕を生み出し、高級感と安心感を演出しています。
ワンランク上のブランドであることを意識しているからです。

一方で、激安の殿堂と言われるドン・キホーテは、商品を所狭しと積み上げます。
店内ポップも太字で派手、あれもこれもと強調したように作られています。
これは大衆の味方であること、とにかく安く、大量に取り扱っていることを全面に押し出しているからです。

それぞれの戦略があり、ブランドイメージがあり、きちんと設計されているので、どちらも成立しています。

これが、なんの考えもなしにApple Storeが商品を所狭しと積み上げ出したら、その信頼度は激減するでしょう。
逆に、ドン・キホーテがすっきりした店内にし、装飾や色味を削ぎ落とした陳列をしたら、深夜にジャージとスリッポンでふらりと立ち寄れる場所ではなくなるでしょう。

なんでもかんでも余白をつくれ。と言うつもりはありません。
ですが、この意識や区分をしないままに、とにかく空きスペースがあるからと情報を詰め込むようなことはやめておきたいですね。

何のための余白なのか?

何のための余白なのか。
それは突き詰めていくとすべて、初期のブランド設計に紐づいてきます。

そして、余白を生かすべき内容で、クライアントさんから情報の詰め込みを依頼されたとき、ボクは上記のような理由で説明をしているわけですね。

何度も言いますが、ただ詰め込めば良いわけではありません。
逆に言うと、余白だらけにしたら良いとも限りません。

そのときそのときのクリエイティブにとって、あるいはそのクライアントさんにとって、最適な提案をすること。
それがボクらディレクターの役割であり、デザイナーさんに求められる能力であると思っています。

もし、今後クライアントさんに「あれもこれも」の強調を求められたときは、一度この話を思い出してもらえたらなと思います。

よりよいクリエイティブの提供へ。
業界、界隈をあげて取り組んでいきたいものですね。

ABOUT ME
Andy
we.編集長/Design Offiice io COO./Creative Director|東京⇆京都の2拠点生活。| 企業の経営課題を解決するデザイン・コンサルやクリエイティブ・ディレクションやってます。|ミニマル思考と独特の着眼点で「?」を「!」にする発想・提案が得意。|日本のビジネスにクリエイティブの革命を起こしたい。