「ディレクター」「ディレクション」と一口に言っても、実際にどんな業務をしているひとなのかを一言で表すのはとても難しい。
カメラマンなら写真を撮る人。
イラストレーターならイラストを書く人。
デザイナーならデザインをする人。
一応簡単に一言では紹介できる。
もちろん、詳細を話し始めたらキリがないのは大前提で、少なくともクリエイティブ界隈のことを全く知らない人でもなんとなく納得のいくイメージを持つことはできるはずだ。
でも、ディレクターとなるとこのハードルが一気に上がる。
ディレクターはディレクションをする人。
と説明しても、その「ディレクション」という言葉自体がとても曖昧でイマイチピンとこないからだ。
これは実際に業務でディレクションをしている人でもあるみたいで、よく「自分の仕事の価値をうまく説明できません」と言った悩みを相談されることがある。
それくらい、「ディレクション」とは曖昧なものなんだと思う。
では、ディレクターの持つ「本質的な価値」って一体なんなんだろうか?
今回は、「ディレクション」のスキル(プレゼンやスケジューリングなど)ではなく、もっと上の概念として、ディレクターが持っている価値について、ボクの考えを掘り下げてみようと思う。
ディレクターの価値①アイディアの化学反応
ディレクターには複数の専門性の領域間を自由に行き来できる思考・発想が必要になると思ってる。
webディレクションをするならウェブデザインの知識だけでなく、コーディングについてもある程度の理解があった方が良い。
動画制作をディレクションするなら、撮影についても、編集についても、ある程度自分の意見や考えを話せることが大事だ。
この時重要なのが、闇雲に思いつきを提案することではなく、実現可能な範囲(それは予算やスケジュール、スタッフのスキルなどいろんな要因に起因する)で、どれだけの提案ができるかが大事だ。
だから、必要最低限の知識を幅広く持っておく方が良いし、その広く浅い知識こそがディレクターの価値になる。
仮に一つの専門分野の知識は浅くても、その知識を有機的につなぎ合わせて企画や提案ができるところに新たな専門性が生まれるとボクは思ってる。
だから、ディレクターを目指すなら、好きなことは多いほどいい。
その興味関心が、いずれは意外と武器になる。
特に、「知識だけをもっている」より、「一度でも体験したことがある」は強い。
一歩でもリアルな世界に踏み込んでいると、ただの知識だけより、多角的な視点や広い視野を持つことができる。
そこから描き出せるアイディア、解決策はより独創的になっていく。
三日坊主も繰り返したら価値になるんだ。
ディレクターの価値②マルチスキル
新しい知識やスキルを学ぶことに喜びを感じ、習得を楽しめる人はディレクターに向いている。
持っているスキルの幅が広いほど、対応可能領域も広がっていくからだ。
また、自分が手を動かさなくても明確・的確な指示を出せるなど、プロジェクトを円滑に進行できるのは間違いなく価値になる。
ちなみに、ボクは
・TV番、CM、web動画の企画
・台本作成
・動画撮影
・編集
・ナレーション原稿制作
・写真撮影
・web、グラフィックデザイン
・ライティング・コピーライティング
・ワードプレスサイトの立ち上げ
このあたりは一通り一人でもできる。
趣味に毛の生えた程度のものから、それなりに出来る分野まで、幅は広い代わりに、どれもそれ一つで独立したプロとしてやっていけるだけのスキルだとは思ってない。
これはボクがテレビ番組の制作会社からキャリアをスタートさせ、動画制作を一通り学び、趣味で写真を撮りつつ、デザインに興味を持ってウェブ広告業界に転身したという異色なキャリアが作り上げてきた稀有なプロフィールかもしれない。
でも、多趣味で、好奇心旺盛で、なんでもやってみようとがむしゃらにやってきたからこそ、これだけのものを積み上げることができた。
マルチに対応可能なスキルがあることは、ディレクターとしては大きな価値になる。
ディレクターの価値③ポリバレントな人材
ディレクターと言うと、どうしてもチームのリーダー的なイメージを持っている人が多いと思う。
実際にプロジェクトを運用するときにはチームの先頭にたつことは多い。
でも、必ずしもリーダーシップが必要かと言うと、ボクはそうは思わない。
もちろんあるに越したことはないかもしれないけど、あくまで「リーダーシップ」は数あるディレクション能力のうちの一つだ。
要はディレクターとしてはプロジェクトを上手く進めることが出来れば良いわけで、必ずしも自分が強大なリーダーシップを発揮する必要などない、と言うのがボクの持論。
むしろ、ディレクターに向いている人は適応力が高く、専門性がないことが武器になる人だと思ってる。
昔でいうところの器用貧乏なのかもしれないけど、ボクは「ポリバレント(万能型)」だって説明してる。
つまりはユーティリティ・プレイヤー。
自分が必ずしもそのチームにおいてのディレクターにならなくても、欠けてるピース(役割)を自ら埋めることで、チーム能力の最高出力を効果的に高めることができる。
例えば
・リーダー(主格)
・サブ(副格)
・アレンジャー(調整)
・コネクター(連携)
・フォロー(守備)
・スケジューラー(実行)
・アシスタント(補佐)
これらのどのボジション、あるいは複数のポジションをこなすことができるのは「ディレクター」の能力の一つだと思ってる。
逆に言えば、この複数の能力を同時に持ち合わせているのもディレクターの価値だと言えると思う。
ディレクターの価値④柔軟な発想と思考
ディレクターには広い視野と的確な視点だけでなく、「自由な視座」も必要になると思ってる。
視座とはつまり、「どの立場から見るか」ということ。
これは柔軟な発想や思考ができないと難しい。
違う立ち位置から全体を見直すことで一つの問題解決にこだわらない方法論を思いつくことがまたディレクターの価値になる。
逆に言えば、目の前の課題にしか目がいかない人はディレクターには向かない。
例えば外出時に「雨が降りそう」な課題解決に「傘を持たす」しか解決法を出せない場合。
もっと視野を広げて、「外出をやめる」みたいな大きな視点からの解決法も思いついて比較できるかどうかが重要になってくる。
言われた通りのことしかできない場合はこの状態に陥る。
ディレクターいなくても良くない?状態。
良い意見は良い意見として受け取り、ブラッシュアップする。
一方で、たとえクライアントの要望であろうとも、本筋からずれること、つまり「方向性の違うこと」は無理して盛り込まない判断は重要。
これがプロジェクトの方向性を示すということ。
まさに「ディレクション」の価値。
ディレクターの価値⑤スペシャリストの通訳
デザイナーが直接コーダーやクライアントと打ち合わせができるならディレクターは必要ない。
(そのデザイナーはディレクション能力を持っている人)
でも、そうならないのは専門家には専門家の言語や作法があり、それを伝えるのが簡単ではないから。
この通訳の部分を担当し、プロジェクトを円滑に進めるのがディレクター最大の価値。
デザインでもコーディングでも、技術的な凄さを説明されても、多くのクライアントはわからない。
逆にクライアントサイドも「こうしたい」という思いが強すぎて、これまでにない文脈から話を始めたりする。
そこを紐解き、自分の経験や価値観から引き出した「わかりやすい情報」として簡単に説明する能力が必要になる。
多方面でコミュニケーションが取れること、つまりは専門スキルの通訳ができることは、ディレクターの価値になる。
いろんなタイプのディレクターがいる
一言に「ディレクター」とくくるとかなり型にハマった人物像になってしまうかも知れない。
でも、ボクはディレクションってのは複合能力の総称だと思ってる。
だから上にあげた5つの価値のうち、全てを網羅してないとダメだなんて持ってない。
少なくとも一つは得意だったり、苦手じゃないと思える項目があるなら、その人はディレクターとして十分にやっていけると思ってる。
逆に言えば、本質的にディレクターに向いていない人だっている。
シングルタスクのシングルプロジェクトが好きで、しかもそれを何十年もかけて極めたい人、言うなればプロフェッショナルタイプの人だってたくさんいるのだ。
逆に言えば、プロフェッショナルタイプの中にもディレクション能力を持つ人だっている。
逆の逆で言えば、ディレクター(ジェネラリスト)タイプの人の中にも、いつしか一分野で専門性を確立する人だっているのだ。
今、足りない能力に嘆く必要なんてない。
まずは自分ができることを確かめる。
そして次にそのできることを広げていく。
気がつけば、きっといろんなことができるようになっている。
学ぶ心がある限り、人は成長できる。
あとは専門性を突き詰めてプロフェッショナル方向に行くか、拡張性を求めて、プロジェネラリストの道を行くか。
選ぶのは、自分だ。
ディレクションスキルについて、もっと具体的に知りたい方はこちらから。
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