ディレクション入門

第5回|”進行管理”と”ディレクション”の違いはなんですか?〜後編〜

この連載は「得意なことがない」「スペシャリストにはなれない」と悩んでいる方が「ディレクション」という武器を手に入れるための入門書です。
何者にもなれない悩みをクリエイティブ・ディレクターのAndyさんにぶつけて、自分の武器を手に入れるヒントを一緒に探してきましょう!
あなたには、「ディレクション」という武器がある!

今回のご相談(前編からの続き)

進行管理とディレクションはどう違うのですか? 自分のしていることはディレクションではなく単なるスケジュール管理なんじゃないかと思うと武器にはならない気がします。

質問者:31歳 ユキ(仮名) 会社員

Andyの回答
 「進行管理もディレクションスキルのひとつ。しかし、カレンダーだけをみているやり方では、ディレクターとしては少し足りないかもしれません。”スケジュールコントロール”ではなく”チームコントロール”だと思ってやってみましょう!」

こんにちは。編集/ライターのあさのみです。

はじめてのディレクション〜スペシャリストでないあなたが「見えないスキル」を形にする方法〜、第4回前編では、こちらの質問に答えていただきました。

「むむむ、理屈はわかったぞ!
でもどうやって実行しよう??」とイメージがわかない
という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回の後編では、
「進行管理」を武器に変えるための
自分の得意別・チームコントロールのコツ
を、具体的に、Andyさんに聞いてみました。

「チームコントロール」をするには「進行管理」に「自分の個性や得意」を掛け合わせる!


チームコントロールのコツ、
それは
「進行管理」に「自分の持っている得意なスキル」を掛け合わせてみること。

すべてのスキルを完璧にこなす必要はない、と、第2回でもお伝えしました。

が、せっかく複数のスキルを融合して価値を生み出せるのがジェネラリスト。

かけあわせて使えるものはないか? と考えてみましょう。

そこに、自分の力を無理せず発揮しながら価値を生むためのコツがあります!

いくつか例をあげてみます。
あなたができそうなものを見つけるヒントになれば幸いです。

■「進行管理」×「リスクマネジメント」=狙撃手型(スナイパータイプ)

リスクマネジメントが得意な方は、未来予測が得意だと思います。
先読みをする力は、すなわち獲物がどう動き、どこで待ち伏せたら仕留められるかを思考する分析力があるということです。

そのためには、きっと目先のことだけでなく、かなり先まで見通して、たくさんの「もしも」を想定し、あらゆる対応策を自然と構想しているのではないでしょうか?

・もしも作業が遅れてしまったら
・もしも想定通りの会場が抑えられなかったら
・もしも予想以上にお金がかかってしまったら
などなど。

常に、B案C案などの、リカバリー案を考えているのではないでしょうか?

どこまで事前に、リカバリー案をチームメンバーに共有するかは、状況にもよるでしょうが、チームにとって「想定外」が起きた時に、慌てずにさっと代案を出すことができれば、メンバーは、安心して、自分の仕事に集中できるはず。

また、「もしかしてこの業務遅れそうかも」というアラームを素早く察知して、先に手を打っておくこともできますね。

例えば、ボクがよく携わっている業務の1つ、ウェブ制作では
「デザイン」→「コーディング」という工程を踏みます。
デザイナーさんが少し遅れそうなら、事前にコーダーさんに連絡を入れてスケジュールを把握、調整しておく、など、
そういうリスクを見越した調整はよくやります。

「大丈夫、なんとかする方法は、ちゃんと考えてるから」というディレクターがいることが、どれだけ心強いでしょう。

それぞれの工程で、何か問題が起こっても、すぐに相談もしてもらえるわけです。

■「進行管理」×「モチベーションコントロール」=将軍型(ジェネラルタイプ)

たとえ短期間で仕上げなければならないものであっても、やる気がでるプロジェクトは、ディレクターのモチベーションコントロールが上手なことが多いです。

それをボクはマンガ「キングダム」の将軍に例えています。
自分の隊を鼓舞し、モチベーションをあげ、チーム全体を覚醒させる・・・そんなことができるあなたは、間違いなく将軍型(ジェネラルタイプ)のはずです。

・「遅れてますよ!」と取り立てるのではなく、
チームに、プロジェクトの目的や意義を共有する。

・いきなりダメだしをするのではなく、
その意図を説明し、よりよくするアイディアを出し合う。

・直感的に急に計画を変更するのではなく、
なぜ変更するのか、どのようなメリットがあるのかなどの理由や利点も添えて伝える。

・部分としてただ業務配分をするのではなく、全体の中で、どのような役割なのか、全体がどのような進捗なのか、その人が必要な情報を的確な範囲で渡す。

「タスクとスケジュールを管理する」という仕事の中でも
メンバーの気持ちに寄り添う意識と、少しの気配りで、
気持ちよくできる仕事になるはずです。

この「少しの気配り」が上手な人がディレクターだと、メンバーが自発的にもっともっと良い仕事をしようと動きやすくなりますね。

■「進行管理」×「情報整理」=軍師型(コントローラータイプ)

ディレクターは全体像を把握する人なので
手元にある情報がとても多いはずです。
特にディレクターには各所各人からどんどん情報が集まります。

でも、その情報をみんな知ってる「テイ」でいきなり話を始めても、誰もついてきては来れません。
でも、意外とこれができていない人が多いのです。

情報は、持っているだけでは宝の持ち腐れ。
的確に分析し、最適に処理することができるあなたは全体を見通す俯瞰力を持った軍師型(コントローラータイプ)のはず。

情報整理が得意な人は、たくさんの情報を整理整頓して、必要な場面で、必要な人に的確に共有することができるでしょう。

・「これ企画書なんで全部読んどいてください〜」と共有するのではなく、その場面や、その業務に必要な部分だけを抜粋、再編集して伝える。

・「これ、前回の結果数値です!」とすべてのデータを渡すのではなく、最も象徴的なものだけをピックアップして渡す。

これで業務効率も、モチベーションも格段にあがるはずです。

■「進行管理」×「自己スキル」=遊軍型(ユーティティタイプ)

ジェネラリストの方の中には、いろいろなスキルを、プロフェッショナルほどはできないけど、まぁだいたいできる、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そういう人は足りないところを的確に埋めることができる遊軍型(ユーティリティタイプ)です。
攻めて良し、守って良し、神出鬼没で苦しい場面にさっと現れる、万能型ディレクターですね。

たとえば、デザインを本業にはしていないけどイラレでデータ修正はできる、フォトショップで画像補正はできる、など。

スキルを横に積み上げるという話を第3回でしましたが、それはここでもいきてきます。

・滞りがある部分に、自分がヘルプに入る、というパターンです。

・誰かのちょっとした取りこぼしは、だいたい自分で拾ってしまえる。


これってすごいことです。

プロフェッショナル にはできない、ジェネラリストならではの特技ですよね。

ボクもTV番組やCMの企画制作、映像編集や台本作成、ウェブやデザイングラフィックデザイン、ライティング、ワードプレスサイトの立ち上げと、それなりにいろいろとやってきたので「それくらいなら、ボクやっときますよ」と言って拾うことで遅れを取り戻すことが、たまにあります。

無意識的に使っていた「特技」と「特技」を掛け合わせるという意識を持ってみる

さて、「進行管理」を武器に昇華させるイメージは持てましたか?

例として、4つの能力との掛け合わせを出しましたが、これに限らず、自分らしいスキルアップのしかたは、無限にあるはずです。

自分の性格、特技、スキル、キャリアをもう一度見直して、意識的にかけあわせて使ってみましょう。

得意なことというのは、自分にとっては無意識にできているものです。
でも、これまで無意識にできていたことを、「意識して使う」ようにすると、他のスキルとの掛け合わせもうまくできて、自分の幅もひろがっていきますよ!

最後に、去年のボクのツイートを掲載しておきます。

ディレクターがいるから、その仕事は、「納期を守れた」以上の価値を出せるのです。

次回予告

「”ディレクターにこれだけは欠かせない!”というスキルはなんですか?」

質問者:25歳 ミホ(仮名) 会社員

Andyの回答
「課題解決力でしょうか。といっても、そんなに難しく考える必要はなく、要するに”タスクに分解する力”ともいえるでしょう。」

告知

「武器がない」と悩む方からの質問を募集しています。

年齢、立場、悩み事(ざっくりでも具体的なシーンに関してでも)を書いて、Andyさんに悩み相談をするような感覚で、お気軽にこちらにお送りください。
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もっと「ディレクション」について読む

「ディレクション」は武器になるシリーズ

はじめてのディレクション
〜スペシャリストでないあなたが「見えないスキル」を形にする方法〜

第1回|器用貧乏で、何者にもなれない自分がコンプレックスです

第2回|ジェネラリストを名乗れるほど、すべてが完璧にできるわけではないのですが…

第3回|いろいろやりすぎて、何年経っても専門性が身についている気がしません

第4回|”進行管理”と”ディレクション”の違いはなんですか?〜前編〜

第5回|”進行管理”と”ディレクション”の違いはなんですか?〜後編〜

第6回|”リーダー”と比較するとわかる。”ディレクター”のこれだけははずせない必須スキルとは!?〜前編〜

第7回|”リーダー”と比較するとわかる。”ディレクター”のこれだけははずせない必須スキルとは!?〜後編〜

ディレクションスキルを学ぼう!

ディレクション入門①
ディレクションって、結局どんな業務なの?仕事内容を徹底解剖。

ディレクション入門②
キャンプの昼ご飯決めでわかる、ディレクションの質の話。

ディレクション入門③
プロの仕事から学ぶ、ロゴ制作のプロセス大公開

ディレクション入門④
ヒアリングの苦手意識を克服しよう!

ディレクション入門⑤
ネーミング&コピーライティングのコツ

ディレクション入門⑥
打合せで活きるディレクション力を学ぼう!

ディレクション入門⑦
プレゼンテーションの基礎・基本を学ぼう

ディレクション入門⑧
打ち合わせのまとめ方

ディレクション入門⑨
スケジューリングのコツを考えてみよう

何者にもなれずに悩むあなたは、もしかしたら「マルチ・ポテンシャライト」かも知れません。
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we.の収益は全て「クリエイティブの価値を高め、広め、深める。」の理念の元、メディアwe.の運営や、それに付随する全ての活動に使わせていただきます。

 

ABOUT ME
企画・執筆|いずみの編集室 あさのみ ゆき
フリーランス編集者、ライター。専門は子どもの知的好奇心をテーマにした読み物。日常の中にある知らなかったわくわくや初めての発見を見つけられる誌面作りにこだわっている。 「私自身も、専門家としての突き抜けられなさに悩んでいる1人です。だけど、たくさんの専門家に取材をしてきて思うことは、自分がわくわくすることに根気強く向き合えば、必ず一人ひとりに合った道が見つかるということ。この連載を通して、共に”知らなかった自分の力”を発見していけると嬉しいです。」